伍ノ刻、老婆と呪術

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※※※ 「本当に笑わせてくれるのぅ。坊は」  身体を二つ折り、笑い転げていた女の目尻には涙が浮かんでいた。  それほどに笑うことはないだろう、とこぼすのを貞治はぐっと我慢する。  余計なことを言ってはやぶ蛇だ。 妹千代でわかる事だが、女性に口ごたえなどは百にも二百にもなって返ってくるもである。 「笑い事じゃありませんよ」  彼の代わりにむっつりと返したのは、襖を静かに開けて現れた修司だった。  きつい一瞥をくれて、敢えて距離を取って座られたのに些か落ち込む。しかしその表情は難しげに歪められているもので、まるで怒っているかのようだ。 「まったく君は、冷静な判断力というものが無いのか」 「素っ裸でぶっ倒れてた、あんたが悪いんだろう」 「やれやれ人のせいか。僕だってね、好きであんな格好……」  何かを思い出したのか、その白い顔にさっと朱が走る。  その様に貞治が深くため息をついた。 「あのな。先も言うたが見た目は若い妓だが、実際は地獄の鬼で相当の年寄――」 「これ、無礼な物言いを」 「痛っ」  腕を伸ばし、煙管で彼のこめかみを軽く小突く奪衣婆。 「ただするのに邪魔だったから剥ぎ取っただけじゃ。まあ、多少はも拝ませてもらったがのう」 「この破廉恥婆め」 「だから勘違いするでない。のう、嬢ちゃん」 「……」  揶揄(からか)うように笑い、再び煙管の火皿に葉を詰め始める。  怪訝に見つめる貞治の視線から、逃れるように顔を俯かせる様が気に食わない。 「なんなんだよ。意味ありげな」 「別に――良いだろ。今回のことには関係ない」  呟き唇を噛むものでこれ以上追求は諦めたが、いつか絶対聞き出してやろうと心に決めた。
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