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※※※
「本当に笑わせてくれるのぅ。坊は」
身体を二つ折り、笑い転げていた女の目尻には涙が浮かんでいた。
それほどに笑うことはないだろう、とこぼすのを貞治はぐっと我慢する。
余計なことを言ってはやぶ蛇だ。
妹千代でわかる事だが、女性に口ごたえなどは百にも二百にもなって返ってくるもである。
「笑い事じゃありませんよ」
彼の代わりにむっつりと返したのは、襖を静かに開けて現れた修司だった。
きつい一瞥をくれて、敢えて距離を取って座られたのに些か落ち込む。しかしその表情は難しげに歪められているもので、まるで怒っているかのようだ。
「まったく君は、冷静な判断力というものが無いのか」
「素っ裸でぶっ倒れてた、あんたが悪いんだろう」
「やれやれ人のせいか。僕だってね、好きであんな格好……」
何かを思い出したのか、その白い顔にさっと朱が走る。
その様に貞治が深くため息をついた。
「あのな。先も言うたが見た目は若い妓だが、実際は地獄の鬼で相当の年寄――」
「これ、無礼な物言いを」
「痛っ」
腕を伸ばし、煙管で彼のこめかみを軽く小突く奪衣婆。
「ただ仕事するのに邪魔だったから剥ぎ取っただけじゃ。まあ、多少は良きものも拝ませてもらったがのう」
「この破廉恥婆め」
「だから勘違いするでない。のう、嬢ちゃん」
「……」
揶揄うように笑い、再び煙管の火皿に葉を詰め始める。
怪訝に見つめる貞治の視線から、逃れるように顔を俯かせる様が気に食わない。
「なんなんだよ。意味ありげな」
「別に――良いだろ。今回のことには関係ない」
呟き唇を噛むものでこれ以上追求は諦めたが、いつか絶対聞き出してやろうと心に決めた。
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