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「奪衣婆から聞いただろう。先生、あんたのそれは呪術によるものらしい」
「つまり。僕に恨みを抱く奴らの仕業、だと」
「……おい。待て」
貞次は顔を顰めて、足を止めた。
湿った草の匂いが、辺りに立ち込める。
「ずいぶんと心当たりがありそうじゃねぇか」
今しがた、修司が口にしたのである。
『奴ら』と。
「洗いざらいすべて話せ。その縁とやらも」
そこにこの忌まわしき黒髪の呪いを解く、糸口があると確信していた。
「縁、か」
人が産まれ、生きる――そこには多くの結び付きが存在する。
父や母といった肉親だけではない。密に絡み合う、糸の如き。兄弟姉妹、祖父母に祖先や先祖の血脈。
さらには、そこに至るまでに肉親達が辿った道でもある。
何が欠けても、その者はこの場にいることが無かっただろう。すべては偶然であり必然。
糸屑のような細き縁であっても。その魂を、肉体を。過去と未来を構築するのだ。
「僕はもう、死ぬのだな」
小さな声だった。
耳をすませていなければ、虫の声にかき消されてしまうほどに。
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