井戸と正直者

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 どんより曇った昼下がり、「あーあ、金が無い。金が無い。どうしよう。」と男は呟きながら裏通りをとぼとぼ歩いていると、四辻に差し掛かった時、声をかけられた。 「これ!そこの者!こっちへ来なされ!」  男は立ち止まって声のする方を見ると、共同井戸の隣に老人が立っていた。  亀甲竹の杖を突き、からし色の頭巾を被り、着物もからし色でその上に紫色の羽織を纏い、下は鼠色の野袴を履いていて容色はと言うと白い八字髭と山羊髭を生やしているから宛ら時代劇に登場する水戸黄門のようだ。 「何か用ですか?」と男は聞くと、老人が優しげに微笑みながら手招きするので誘われるが儘、そっちへ向かった。
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