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ドブ板通りの雇われもの。⑨
「わ!わ!なんですか!?」
糸の切れた操り人形のように倒れてきた少女の、ズッと突き出された右手に捕まれまいと惣太郎は瞬時に後ずさる。
「なんですか!?なんなんですか?!」
倒れ込みながらも少女は左右の眼をカメレオンじみた動作で別々にギョロつかせながら、爬虫類みたいに四つ足で這いずりつつ続々と繰り出してくる執拗な左右の手を避け惣太郎は、彼女の手のひらの盛り上がった皮膚の異様な◎の存在を素早く確認した。
なんですか、あの印は!
惣太郎は後ろ向きで素早く部屋にズリ上がり、どんどん四畳半の奥へと追い詰められながらも少女のトカゲみたいな異様な動きと、そして手のひらの印を交互に見比べつつ器用に少女の攻撃をかわして、あの手に体のどこかを握られたり触られたら終わると、そう彼は恐怖しながら直感的にそう思った。
バン!バン!
ガタン。
逃げる惣太郎の足首を今まさに掴まんとしていた少女は、血走った左右の目を中央にキュッと引き寄せて畳の上に昏倒した。
彼女を倒したのは、袖から二丁の拳銃を硝煙とともに覗かせた同居人のロリだった。
「惣太郎。生きてた」
「ええまあ、なんとかかんとか。お腹が空くくらいには元気に生きてます♪」
背後から少女の後頭部と首筋を狙って放たれたロリの銃弾は、寸分たがわず命中している。
「コルク弾。問題ない」
「気絶させただけですね。お陰さまで助かりました」
気を失った少女の首筋に出来たアオタンみたいなアザと、頭に出来た一口饅頭みたいなぷっくりした赤いタンコブに、惣太郎は大きく息を吐き肝を冷やしつつもホッと胸を撫で下ろしていた。
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