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ドブ板通りの雇われもの。②
「コロッケ?」
筋の通った形のよい鼻をスンスンさせたロリさんは、おかみさんの手招きに誘われた子猫ようにちょこまか足を忙しなく動かして、屋根に掲げた看板がもげ落ちそうな店先にスックと佇んだ。
佇んで、無表情のままおかみさんに碧眼のあおい眼を向けてスイッと顔を上げた。
「まあまあまあ!今日もお人形さんみたいな綺麗なお顔をしているねぇー♪うちの子もこれくらい可愛かったらいいんだけどねぇ♪」
そう、おかみさんは大層よろこんで左手のひらを頬に引っ付けながら目を細め、暑くもないのに顔を紅葉させながら古新聞の袋に入れられたコロッケを手渡す前より先に、温存されていた右手を使って彼女の柔らかそうなフワリとした頭をニコニコしながら撫でる。
ロリはと言えば相も変わらぬ無表情のまま、いまにも溶けそうな笑顔をしたおかみさんに両の手をついと差しのべて、
「ちょうだいな」
などと、覚えたての芙蓉語を駆使しておばさんに揚げたてのコロッケを要求した。
「あー!そうだったね!ついロリちゃんの可愛さで忘れちまうとこだったよ♪」
ほいよ♪と手渡されたコロッケの袋を受け取ったロリは躊躇なくサクリ、まだまだ熱いコロッケにかぶりつく。途端に少女の表情はパヤーーッと輝いた。
「おいしいかい?」
「Yum♪Yum♪(ヤム♪ヤム♪・うま♪うま♪)」
「そうかい♪そうかい♪よかったねー♪」
おかみさんはオーベラル語はわからないまでも、いかにも旨そうにパクつくロリの食べっぷりに心が温かくなり、再度彼女の頭や艶やかな金色の髪の毛を上から下へと櫛で解くように愛しげにさすった。
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