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ドブ板通りの雇われもの。③
「おばちゃん。Ta♪(タ・ありがとう)」
「どういたしまして♪今日も甲斐性なしの分はいるのかい?」
「うん」
コクリ。オーベラル語のスラングでコロッケの美味しさを伝えお礼を言っていったロリは、同居人のために頭を垂れて感謝の意を示す。
「毎日良く働いて、ロリちゃんはホントえらい子だよ。ねぇお前さん!」
それまでグズ肉を二丁の肉切り包丁で叩いてミンチにしていた手を止めて、丸坊主の厳ついおかみさんの旦那にして肉屋の店主が深く頷いた。
そして古女房であるおかみさんに、ロリの分も含めて全部で4つ、コロッケを包んであげるよう指を4本立てるジェスチャーで云った。
「はいはい。わかったわかった。あんたはあの甲斐性なしに甘いねぇー」
そう呆れながらもおかみさんはいそいそと、揚げ棚で余分な油を落とし中のコロッケを、ホイホイポイポイ箸でつかんで大きめの古新聞の袋に突っ込んでいった。
「自治会もねぇ。ここんところ変な人が徘徊してる噂があったり、国や大店さんの雇船が人知れず沈んだり、訳のわからない連中が行進していたりして物騒なものだからって、あの働いても金にならない仕事ばかり引き受ける甲斐性なしはともかく、こんな可愛い子まで一緒に雇わないといけないくらい人手が足らないのかねぇ」
「大丈夫。There’s nothing to worry about(なにも心配いらないよ)」
芙蓉語の聞き取りはある程度できるようにはなったものの、まだしゃべるのは苦手なロリは、それでもおかみさんの自分を思う不安を少しでも取り払ってあげたい思いから、ご飯を食べてるときのような笑顔をして見せた。
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