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認め合うもの
「それではお疲れ様でしたー!」
部長が言うと皆騒ぎだした。
キャンプが終ってファミレスで皆で騒いでいる。
私も皆と話してた。
瞳子は一人で静かに皆の話を聞いている。
私は瞳子の向かいの席にいた。
隣には建人がいる。
建人と瞳子は何も無いかのように普通に話をしている。
瞳子の隣にいる劉生は必死に瞳子にアピールしているが全く意味が無さそうだ。
「私付き合ってる人がいるので」
瞳子のその一言が私を責める。
客観的に見て私のやってる事は浮気だ。
瞳子には許しがたいものだろう。
実際昨日までは私を責めていた。
なのに今朝から何も言わなくなった。
私が建人と話をしていても羨ましそうにしているだけ。
「だから俺達も……」
劉生はそう言うがさっきの言葉を淡々と告げるだけ。
「どうしたの冴?」
建人が話を振って来た。
「な、なんでもない」
「ならいいんだけど、さっきから静かだから」
「ちょっと疲れたから」
「大丈夫?冴」
瞳子も声をかけてくれる。
「大丈夫だよ、それより今朝建人と何を話していたの?」
いつまでももやもやしているのも嫌なので聞いてみた。
「建人さんと冴の関係を聞いただけだよ」
私と建人の関係?
「付き合いだしたんでしょ?」
冴はそれを認めると言うの?
「瞳子はそれを認めるの?」
「私がダメっていって諦める程度の気持ちなの?」
「それは無いけど……」
すると瞳子はくすっと笑った。
「いいんじゃない?ただちゃんとケジメはつけるべきだと思うけど」
「うん……」
瞳子はそれ以上追及してこなかった。
それが私を却って不安にさせる。
「瞳子は私を軽蔑する?」
「しないよ。冴の意思を尊重する」
でも二股はよくないと思う。
ちゃんと誠司に話をしなきゃだめ。
瞳子はそれだけしか言わなかった。
「だったら瞳子ちゃんも俺なんてどう?」
劉生は余程瞳子の事が気に入ったようだ。
それでも瞳子は否定する。
「私には冬吾君がいるから」
瞳子と冬吾君は余程強い絆があるんだろうな。
だけど私には出来なかった。
「でもそれでいいんじゃない?」
瞳子が私に言う。
「私と冴は違う。価値観が違う。だけど冴の意思を尊重する」
「瞳子……」
「冴が幸せになれたらいい。冴の事を認めるのが大事だと思うから」
一つになる必要なんてない。
私たちは違う個体なんだから。
お互いに認め合う事が出来ればいい。
お互いが幸せになれたらいい。
瞳子はそう語った。
「でも、どっちつかずはダメだと思う。建人さんから聞いた。別れを告げるのはもっと辛いって……。でも今の冴には建人さんがいる」
建人が私を支えてくれるから冴は大丈夫だよ。
確かにその通りかもしれない。
「メッセージとかそう言うのはダメだよ。ちゃんと冴の言葉で伝えてあげて。辛いと思うけど」
「……わかった」
「冴……」
建人が私の手を握ってくれた。
そんな私たちをみて瞳子は笑ってくれた。
それだけで救われた気がする。
「瞳子、ありがとう」
「うん、私も冴が辛いのに気づいてあげられなくてごめん」
「瞳子ちゃんも辛かったらいつでも俺のところに」
「私は平気だから。冬吾君は凄い人だから」
乾いた瞳子の心を上手く潤すことが出来るらしい。
やっぱり冬吾君は凄い人だ。
この2人ならきっと幸せになれる。
でも私と瞳子を比較するのは辞めよう。
瞳子は言ってくれた。
幸せになれるといいねって。
だから私は建人を選ぶ。
皆解散すると私は建人の家に向かう。
建人も一緒にいて欲しいから。
「別に今日じゃなくてもいいんじゃないのか?」
建人が言う。
「ずるずる引き延ばすのって良くないと思ったから」
私の心は決まった。
まずはメッセージを送る。
建人と一緒の画像を送って。
「新しい彼が出来ました。少し話がしたいんだけど」
すぐに返信がきた。
メッセージ通話で話をする。
「どういうこと!?」
案の定誠司は慌ててた。
必死に私を引き留めようとした。
それを正面から受け止めてた。
私はもう逃げない。
そう決めてたから。
「ごめんなさい。私は誠司を支える事は出来ない」
誠司にも私を支えることはできない。
だから別々の道を行く事を選んだ。
「ごめんね」
誠司は時間をかけて説得してきたけど私は「ごめん」としか言えなかった。
最後は誠司が折れた。
「……わかった。今までありがとう」
「うん、私こそ今までありがとう」
通話を終えると私は泣いていた。
そんな私を建人が抱きしめてくれる。
「頑張ったね」
「うん……」
私は建人の前で誠司の連絡先を削除した。
それまでのメッセージのログも、誠司とのツーショットの写真も。
誠司との思い出は心の中にあればいい。
思い出は綺麗なままでいい。
だけど思い出は優しいから甘えちゃだめだ。
振り返る事じゃない。
前を見て歩き続けるしかないんだ。
私のそばには誠司はじゃない、建人がいる。
だから建人と共に歩んでいこう。
今日が私の新しい旅立ちの日。
建人と2人で歩き始めた。
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