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「撃て!!ぶっ殺せ!」
非情にも射撃の号令が出された。
死を覚悟しつつも、依然として腕の中で眠るラスカルを(ついでにニルも)守ろうという意識が働き。
キースは三人分の頭を床に押し付ける。
ふと、キースは僅かに抵抗するように胸を押される感覚を覚えた気がした。
それが何かを確認する間もなく。機関銃での一斉射撃が開始された。
「殺れやれ、殺っちまえ!!」
社長の高笑いが響く。十秒、三十秒、一分。
無慈悲なる飽和攻撃は長らく続いた。
しかし弾は無限ではなく、やがて銃撃は止んだ。
硝煙の匂いとともに煙が立っている。
霧のようなそれが晴れていく様を、社長はほくそ笑みながら眺めていた。
そしてとうとう認められたものに目を見張る。
「……な」
血の海、死体。彼が望んでいたものはそこになかった。
ラスカルが、ゆらりと佇んでいた。
彼女の背後にはキースとニル。いずれもぽかんと口を開けて、放心状態だ。
よくよく見れば、ラスカルの周囲には無数の何かが浮かんでいるではないか。
小さなシャボン玉の群れだ。その中には、銃弾がまるで埋め込まれたように食い込んでいた。
「お前、何……ッ」
「キースに、手をだすな」
ラスカルが呟く。
瞬間、ぼこりとへこんだ泡玉が、食い込んだ銃弾を跳ね返した。
四方八方に跳ね返り、銃弾は元の方角へ飛んでいく。
自分が撃ち放った銃弾により、黒服達はたちまち蜂の巣になった。
そして、跳ね返った銃弾は社長の元にも。
「がッ」
ちょうど額の辺りに当たり、社長はふらりと後ろに倒れ込む。やはり死なないようだ。被弾箇所を押さえてもがいている。
そんな社長のざまを見届けるやいなや、ラスカルはまた気を失った。
「あらいぐまッ!!」
倒れたラスカルの様子を確認するキース。虫の息ではある生きている。
とにかく今は逃げるべきだ、そう判断した。
「きゃあっ。ちょ、何よ!」
「うるせぇ黙ってろ!」
いささか雑にニルとラスカルを両肩に担ぎ、キースは双子が落ちていった先……ぽっかりあいた大穴に飛び込んだ。
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