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喉を切られた姉・カリンと、腹を刺された妹。
さらにラスカルを入れた三名は、パティに応急処置を施されている。
応急処置といっても、素人である彼女にできることはたかが知れていた。
けれど懸命にできることをしようとしていた。
「あの、申し訳ないんですけれど、どなたかお洋服の布を分けていただけませんか?」
言葉通り申し訳なさそうに申し出るパティ。
止血帯を作りたいのだろう。
けれどパティは、自分のシャツを裂いて使っていたため、もう必要な分の布が提供できない状況にあった。
「俺の使っていいぜ。肉体美披露しちゃう」
軽口を叩きながら、ベルトは服を脱ぐ。
ついでに燕尾服をそっとパティの肩にかけた。
「容態は?」
「えっと、カリンさんは声は出ないけど、傷口は案外浅いです。病院できちんと診てもらえば大丈夫。ラスカルさんは、意識がないけど、反応はあるみたいなので、多分じきに目が覚めます。問題は……」
ちら、とカリンの隣に横たわる、双子の妹に目をやる。
「……妹さん、ですね。血が止まらないんです。内臓が傷ついてしまわれたみたいで」
このままだと、死んでしまう。言いにくそうにパティは言った。
と、キースがニルの胸倉を掴んだ。
「何か言うことは」
キースが冷たい声で訊ねる。
ニルは何も言わないで苦い顔をしている。
「何とか言ってみろ!!仲間とその妹半殺しにしといてどんな言い訳が飛び出てくるのか楽しみでしょうがねぇんだからよ!」
「……仲間、ね。付き合いの浅いあんたが言うセリフなのかしら」
そう吐き捨てて鼻を鳴らした。完全に不貞腐れている。
「だいたい、殺そうとしたのは双子の妹の方だけよ。あんただって復讐がどうとかで殺そうとしてたじゃない」
「ッ……それは」
「それよりもブルーノどこなの。多分ここにいるんでしょ?確認したいことがあるのよ」
「あー、アレだべ?あのオヤジロボットについて」
「ええ、そうそれよ」
ニルはまた眉を寄せた。
「彼から聞いた話と違うわ。どうなってるの?」
「何であいつがあんなもんのこと知ってるってんだよ」
「彼がテッドの情報についての責任者だったからよ!信じられない、あの男私にまで嘘ついたのね……!」
ニルは今まで、一度もクローバーに嘘をつかれたことなどなかった。
どんなにクローバーが嘘つきでも、彼はいつだって誠実に恋人に向き合っていた。
少なくともニルはそう思っていた。だからこそ腹が立った。
「そのブルーノさんだけどさぁ」
ベルトが口を挟んだ。
「もう死ぬぜ」
簡潔なる宣告。途端にニルは青ざめる。
ベルトはそれを見て何を思ったのか、目をすっと細めた。
彼女自身は見るからに美しいのに、まるで汚いものを見る目だった。
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