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「ダメ」
ニルが蚊の鳴くような声でつぶやく。
「ダメよ……それは絶対ダメよ。すぐに彼を助けに行かなくちゃ。ねぇ、みんな助けるわよね?」
目の前にいる同僚達に尋ねかける。が、誰もが視線をそらす。
「どうして!?何で助けようとしないのよ!」
「お前が助けなくていいって言ったんだろうが」
キースが何食わぬ顔で言う。思い起こすは、工場での同僚達の会話。
クローバーが助けを求めている、という趣旨で議論した時の事。
あの時、確かにニルは言っていた。『助けなくていいわ』と。
「ぅ……でも、でも……」
「何だ、急にしおらしくなったな。自分のセコムがくたばるって聞いてビビったか?」
キースが悪意を込めてせせら笑う。
「そもそもあいつはな、皆から嫌われてるんだよ。そんな奴を誰が命張って助けたがる?馬鹿も休み休み言えや」
「違うの……違うのよぉ……」
ニルが冷や汗をかきながら、胸を押さえてうずくまる。
生地をたっぷり使用した服と長い髪がふわりと広がっている。それをベールに頭を垂れる姿はまるで、神に懺悔する様だった。
「何が違う。本当の事だろうが」
「……」
「もういい、時間の無駄だ。とにかく地上に戻――」
ニルを見限るように背を向けるキース。
ところが、ベルトの大きな手のひらが肩口に置かれ、立ち止まる。
蛇のような金の瞳が向ける視線はニルを見下ろしていたために、かち合うことはなかった。
けれどその目はキースに、耳を傾けるよう促していた。
「……ブルーノは……彼があんな性格になったのは、私のせいなのよ……」
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