起きる時間

1/2
39人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ

起きる時間

ーーーー 「ラスカル」 誰かが呼んでいる。 懐かしい声。大好きな声。 声変わりした後だけど低すぎない、優しい声。 『彼』の声だ。 「ほら、起きておいで」 声に誘われて目を開くと、そこは知らない場所だった。 晴れわたる空と、ふかふかの草原が果てしなく広がっている。 ここはどこだろう。さっきまで、ぼくはたしか……ええと。 ふわりといい匂いがした。甘いものと、お風呂好きゆえの石鹸の香り。 この匂いは覚えがある。まさか、と思い恐る恐る顔をむけると。 「ルーク……?」 「よっ」 ずいぶん昔、死んだはずの友達がいた。 焦げ茶色の短髪。整った顔立ちを無駄にするような野暮ったい黒縁メガネ。 春夏秋冬変わらず黄色いロングコートが特徴の服装。 紛れもない。ぼくの大好きな友達、ルーク・ローレンスその人だ。 「ルークっっ!!」 すかさずルークに駆け寄って、強く強く抱きつく。 ぼろぼろとこぼれる涙が、ルークのコートへ染みを作る。 これが夢ではないなら、ぼくはきっと死んだのだろう。 あんなにしがみついた命だったけれど、でも、もういい。 ルークにまた逢えたなら、それでいいんだ。 「ねぇルーク、ぼくがんばったよ。閉じ込められたけど、ひどいことされたけど、何があっても死なないで、ルークのことずっと待ってたんだよ。ほめて」 「ん。約束守ってくれてたんだな。いい子だな、ラスカルは。さすが俺の友達だ」 言葉と声は優しい。 けれど、生前と違って、抱きしめてくれない。 一旦縋り付くのをやめて、ルークの顔を見上げる。 ルークは笑っていたけれど、何か含みがあるような、不自然な顔だった。 「ねぇ、ルーク?」 「んん?」 「……、どうしてここにいるの?ぼくのこと迎えに来たんだろう?」 「違うよ。ラスカルはまだ死んでないからな」 「え、ぼく死んでないの?じゃあ何で……」 「お前に伝えたいこと、あるんだ」 ルークは笑顔でぼくを見下ろして、言った。 「よくも、俺を死に追いやってくれたな」
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!