39人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
起きる時間
ーーーー
「ラスカル」
誰かが呼んでいる。
懐かしい声。大好きな声。
声変わりした後だけど低すぎない、優しい声。
『彼』の声だ。
「ほら、起きておいで」
声に誘われて目を開くと、そこは知らない場所だった。
晴れわたる空と、ふかふかの草原が果てしなく広がっている。
ここはどこだろう。さっきまで、ぼくはたしか……ええと。
ふわりといい匂いがした。甘いものと、お風呂好きゆえの石鹸の香り。
この匂いは覚えがある。まさか、と思い恐る恐る顔をむけると。
「ルーク……?」
「よっ」
ずいぶん昔、死んだはずの友達がいた。
焦げ茶色の短髪。整った顔立ちを無駄にするような野暮ったい黒縁メガネ。
春夏秋冬変わらず黄色いロングコートが特徴の服装。
紛れもない。ぼくの大好きな友達、ルーク・ローレンスその人だ。
「ルークっっ!!」
すかさずルークに駆け寄って、強く強く抱きつく。
ぼろぼろとこぼれる涙が、ルークのコートへ染みを作る。
これが夢ではないなら、ぼくはきっと死んだのだろう。
あんなにしがみついた命だったけれど、でも、もういい。
ルークにまた逢えたなら、それでいいんだ。
「ねぇルーク、ぼくがんばったよ。閉じ込められたけど、ひどいことされたけど、何があっても死なないで、ルークのことずっと待ってたんだよ。ほめて」
「ん。約束守ってくれてたんだな。いい子だな、ラスカルは。さすが俺の友達だ」
言葉と声は優しい。
けれど、生前と違って、抱きしめてくれない。
一旦縋り付くのをやめて、ルークの顔を見上げる。
ルークは笑っていたけれど、何か含みがあるような、不自然な顔だった。
「ねぇ、ルーク?」
「んん?」
「……、どうしてここにいるの?ぼくのこと迎えに来たんだろう?」
「違うよ。ラスカルはまだ死んでないからな」
「え、ぼく死んでないの?じゃあ何で……」
「お前に伝えたいこと、あるんだ」
ルークは笑顔でぼくを見下ろして、言った。
「よくも、俺を死に追いやってくれたな」
最初のコメントを投稿しよう!