ルーク・ローレンス(後編)

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ルーク・ローレンス(後編)

工場に戻ると、キースは真っ先にラスカルの部屋を訪れた。 無用心な事に鍵がかかっていなかったので勝手に入る。 部屋の真ん中で倒れて、爆睡するラスカルが一匹。 軽くいびきまでかいている。 「おい、あらいぐま。こんな所で寝んな」 「すぴー……ぐー」 「ったく、しょうがねぇな……」 起こさないよう慎重に抱き上げ、ベッドまで運んでやる。 毛布をかけてやりつつ何気なくボサボサ頭を撫でてやると、うっすら瞼が開いた。 微睡んだまま、ラスカルがあの人物の名を呼ぶ。 「ルーク……くすぐったいよぅ……」 「違う。僕はキース、キース・アンダーソンだよ。ルークとは他人の空似だ」 ラスカルはしばらく微睡んだままだったが、数秒後、弾かれたように起き上がってキースと距離を取った。 敵意と戸惑い、驚きの入り交じった目でキースを見つめている。 「お疲れ。寝てていいぞ、まだ眠いだろ?」 「きみ……何でルークの名前を知ってるんだぃ。誰から聞いた?」 誰から聞いたも何も、紙っぺらだが。引きこもり生活が長引きすぎて、世情に疎くなっているようだ。 「本で読んだんだ。全部知ったよ。お前の過去の事も、僕によく似たダチの事も」 「……そうか……知ったのかぃ。ならもう分かったろ。君が目の前にいるのはどうにも目障りなんだよ。早く出ていってくれ」 「いいや、出ていかねぇ」 堂々宣言してみせると、ラスカルは顔を強張らせた。 武器を手に取ろうとしているのかポケットに手を伸ばしかけている。 それら全てを無視しながらラスカルを見据え、キースは至極気楽な調子で言った。 「なぁラスカル。お前さ、僕と家族の一員にならねぇか?」 「……何だって?」 「家族だよ家族。お前でも馴染めるいい奴知ってんだ、親父の件が片付いたら一緒について来ねぇか? 牢屋もぶっ壊してさ」 陽気に笑って、頭を撫でてやりながらキースは言う。 ラスカルは何も言わない。 俯いて、人形のようにされるがまま。 キースはそれを肯定と取り、更に続けた。 「そうだ、家族入り記念に、気になってた事聞いていいか? お前性別どっちだ? それによって今後の扱いも変えねぇとな」 「もう……だめだ」 「え?」 「限界だ……時間もない……早く、早く……」  何やらぶつぶつと呟いているので、キースは屈んでラスカルの顔を覗き込んだ。 瞬間、息をのんだ。  その顔は、目が据わっていて虚ろ。口角が不自然なほどに吊り上がっていた。 一目見ただけで、正気を失った人間の顔そのものだとわかった。 「ふふふ、はは、あははははははッ‼ あーもう限界だ! 殺させてくれそうさせてくれ! それで全てが解決する!」  一息にそう叫ぶやいなや、ラスカルは隠し持っていたシャボン玉スティックで、キースの顔を突き刺そうとした。  キースは咄嗟に首を反らし、床をゴロゴロと転がって間合いをとった。  直撃は免れたものの、頬が少し掠ってしまったようだ。  尋常ではないほどの熱を感じる。
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