ルーク・ローレンス(後編)

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「テメェ……何の真似だ!」 「何の真似? ……殺人、だろう? ぼく、殺人鬼だし。おかしなこと聞くねぇアンダーソン君」  ラスカルはさも面白そうに、肩をくりくり揺らして笑う。  次の瞬間、狂った笑顔はそのままで、距離を詰めるように、ラスカルはキースに向かって走り出した。  ぶかぶかの服の中に潜ませていた、巨大シャボン玉スティックを手にキースに殴りかかる。 「……ッ!」  とっさに腕で防御したが、思いのほか力が強い。  衝撃で吹っ飛ばされて、そのまま壁に叩きつけられる。  痛みに咽ぶキースだが、ラスカルは容赦なしに更なる攻撃を加える。  小さな体が得物を大きく振りかぶれば、いくつかの大きな泡がぷくーっと出てきた。  それに指図するように指先をクイクイ動かすと、その動きに従うかのように、シャボン玉の群れは一斉にキースの体に吸い付いた。 「ぐぁああッ!」  シャボン玉が当たった個所からは、ジュゥッという肌や服の焼け焦げる音と煙が立ち上る。  熱い! 痛い! 苦しい!  経験したことのない苦痛に、キースはのたうち回る。 「ほらほら、どうしたんだぃ? やられっ放しなんてきみらしくもない。立ちなよ、お得意の復讐スイッチとやらでさ」  両腕を広げ、無防備のジェスチャーでラスカルが挑発する。  キースの脳内では、痛みは沸々と怒りに変わっていっていた。  徐々に呼吸も荒くなり、目は血走っていく。 「かかって来いよ、坊や」  キースの中で何かが切れる音がした。  それが何なのか理解するより先に、キースは腰のホルダーから銃を取り出し、ラスカルに向かって数発発砲していた。  そのまま割れるかと思ったのだが、なんとシャボン玉は風船のように柔らかく凹んだだけで、次の瞬間にはキースの方に跳ね返ってきた。  頭や目に、一直線で飛んできた弾を、すんでのところで屈みこみ回避する。  キースは全身を襲う熱に苛まれながらも、意を決して、シャボン玉の向こう側にいるラスカルの元へ辿り着こうと駆け出した。  酸のシャボン玉が、行く手を阻むように全身に吸い付いてくる。  しかしキースは強い怒りの念を胸に、駆け抜けた。 「うおぉおおおッ‼」  そしてようやく、ラスカルの目の前までたどり着く。  荒ぶる感情のまま、包帯が巻かれた細い首をわし掴み、押し倒した。  額に銃口を押し付け、引き金を引こうとした時――ラスカルが全くの無抵抗であることに気付いた。 「早くトドメ刺しなよ」 「はぁ⁉」 「きみは殺し合いに勝ったんだ。よってぼくには殺される義務がある」  興奮冷めやらぬ頭でも、この話の流れは到底理解できなかった。  一体何がしたいんだこのチビは? いきなり襲い掛かってきたかと思えば、取り押さえられた途端に義務がどうこうと。  家族にと誘っただけのはずなのに。 「お願いだよ、殺してくれ。きみにならいいんだ。殺せ、早く殺せ!」 「うるせぇ! 何で僕がお前に命令されてんだよ! 死にたいなら他あたれボケ!」 「さっきまで殺す気満々だったくせに! それともっ……こんな体じゃ、殺せないって言うのか⁉」  叫び声と共に、今まで大人しく取り押さえられていたラスカルがキースの鳩尾を蹴り上げた。  不意打ちを食らい、キースは突き飛ばされる形で後退する。  何とか踏ん張った結果、倒れこまずに済んだ。 執念深く握りしめたままの銃を、再びラスカルに向けた。 しかし、彼の銃が火を噴くことは無かった。  既に立ち上がっていたラスカルが、上半身だけ裸で佇んでいたためだ。 いつも着ているぶかぶかのパーカー……だったものは、ビリビリに引き裂かれ、その足元に散らばっている。  体つきは痩せすぎで全体的に骨っぽい。 それよりも目を引いたものがある。 それは。
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