ルーク・ローレンス(後編)

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「醜いもんだろう?」  ラスカルは、穏やかに微笑んで自嘲した。  ラスカルの幼い肢体は、肌は赤黒く突っ張っていった。  ケロイドだ。全身がケロイドに包まれている。 下腹部には、切開した後で無理矢理に縫合したような痕跡がある。 「この肌はねぇ、父親にやられたんだ。死なない程度に薄めた薬品かけられてね。いやぁ苦しかったなぁ。熱いし痛いし爛れるし」  自身に起きた惨事にもかかわらず、あくまでのん気に、ラスカルは語る。  次に、痛々しい下腹部に触れた。 「これはぼくが性別をはっきりさせない理由の一つだよ。知ってるかぃ? ここに入ってたはずの大事なもの」  下腹部に入っているもの。  男性なら膀胱だが、女性なら子宮。  言い回し的に、奪い取られたと考えられる。 そして性別を曖昧にしか話さなかった理由が、それ故だとすると。  まさかこいつ、とキースはある結論を導き出した。 「お前、女か⁉」 「はてさて、子供も作れないケロイド人間なんて、女と呼べるのかねぇ」  抑揚のない声で、彼女(ラスカル)は呟く。 「あの日、ぼくはイカれた連中に拉致されて『去勢』された。彼はちゃんと助けに来てくれたよ。頭を撫でてくれた、背中をさすってくれた、でもかけて欲しい言葉は何ひとつくれなかった!」  それが性別を曖昧にごまかす一番の理由だと、半ば感情的にそう締めくくった。  だから性別を聞かれて、襲い掛かってきたのか。  ただ一人の友人でさえ認めてくれなかった真実に、気安く触れられたから。  そして、顔が似ていたという理由もおまけで。 「えっと、その……何つったら言いか、そのぉ……」  義理で謝罪の言葉を絞り出すキースだが、ラスカルは聞いていなかった。  彼女の頭には、遺言ともとれる友人の言葉が過ぎっていた。  約束であり、呪いでもある言葉。  長い長い孤独の中でさえ、ひと時も忘れなかった言葉。 『――俺が死んでも、お前は独りぼっちにならない』 『何故なら俺は、お前の友達は、死んだことなんて忘れて、性懲りもなくまた戻ってくるからだ』 『あの世がどんな所かわからない、けど必ず戻るから……だから、生きろ。生きて待っててくれ』 『俺達はずっと、二人ぼっちだから』
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