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「なのに、きみを見てると決心が鈍る。きみを見てると、どうしようもなく彼の後を追いたくなる。もうだいぶ長いこと待ったんだ……そろそろ……」
会いたい。
絞り出すような、小さな声だった。
そこに狂気などなく、あるのは純粋すぎる悲愴だけ。
全て察した。
ラスカル・スミスは、狂ってなどいない、と。
「……ちょっといくつかいいか。お前がおかしくなったのっていつだ?」
「おかしく……? ぼくは初めから正気だよ。健全な精神とは言えないかもしれないけど」
「殺人鬼って肩書は?」
「体のどこかをもらっただけで、少なくとも命をとったことは一度もないよ」
「じゃあ……ルークを殺したのは誰だ?」
しばしの沈黙の後、ラスカルは簡潔に答えた。
「ブルーノ・クローバー」
キースは瞬時に、一つの答えを導き出した。
恐らく、クローバーはルークを処刑した事で讃えられ、今の役職に就いた。
それから十一年間、大量虐殺の濡れ衣を着せられたラスカルを観察していたのだろう。
――ところが。
当のラスカルは演技が上手く、傍目には精神錯誤しているのかいないのか判らなかった。
そこで第三者を獄中に送り込み、確かめたのだ。
刺客。仲間となる人間。
そして最後に――ルークにそっくりの人間を。
クローバーが言っていた、「都合がよかったから選ばれた」という言葉の真意はこれだったのか。
だがしかし、クローバーはそこまでして、何がしたかったのか。
疑問に思うキースに、ラスカルは見たこともないような優しい笑顔を向けた。
「悪党が他人を幸せにするためにできる事は何か、きみ知ってるかぃ? 答えはできるだけ自分から遠ざける事だよ。 さぁ逃げておくれ、アンダーソン君。きみはこんな所で死んでいい人間じゃない。地の果てまで逃げて――世界のどこかで幸せになってね」
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