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髭との遭遇
ーーーーーー
ラスカルと一戦交えた後、キースは工場を飛び出した。
リビングでニルとカリンに出くわしたが、何も言われなかった。
というより、聞こえなかっただけかもしれない。
いずれにしろ不幸中の幸いといえるだろう。
――これからどうしたらいいのか。
頼る人も帰る場所も失くした最悪の現状で、何をせよと言うのか。
護摩でも焚けばいいのか。
忌々しい幽霊野郎宅に殴り込みたいところだが、キースは彼の家を知らなかった。
もし知っていたら、刺し違えてでも殺したかった。
というか殺そう。すぐ殺そう。今殺そう。
誰かに聞いてみるといいかもしれない。
たとえばそう――ちょうど目の前にたたずむ、彼なんかどうだろう。
涼やかな目鼻立ち、ほんのり色づく頬。微笑みを浮かべる唇。
凛とした立ち姿はまさしく貴族そのもの。
ダンディなどじょうひげがそれらを彩っている。
もう彼に話しかけるしか手はない。
いざ――!
「うるさぁああい!!」
「うおっ、びっくりした」
びっくりしたのはこっちだ。
足払いを見舞いたかったのに、あっさり回避されてしまった。
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