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その後再び町に戻り、クローバーに連絡をつけて喫茶店で待ち合わせた。
「いやーご苦労様です。お父様について何か分かりました か?」
クローバーはあくまで朗らかな笑みを浮かべて、キースに尋ねた。
いっそ清々しいほどにしらばっくれているその様子に、キースは感情むき出しで怒鳴った。
「分かりましたかじゃねぇよ! テメェ騙しやがったな、あのチビ殺すためだけに、ドラマチックな法螺吹きやがって!」
「おやおや、目上の人に対してそんな態度をとるとは……そんなやんちゃ坊主には、お仕置きが必要ですかね」
不意に背後に人の気配を感じた。
振り返ると――銃を装備した黒服の男達が十人ほど、キースを取り囲んでいた。
「まんまと騙されたなァ、キース・アンダーソン」
クローバーの口調が唐突に変わった。
後頭部でまとめていた髪紐を解くと、だらりとした長めの髪がカーテンのように顔の半分以上を覆い隠した。
辛うじて調和されていた陰気さが完全なものになった。
「図書館で長時間エロ小説見てるくらいだから絶対バカだろうとは思ってたがここまでとはなァ。騙しやすいったらない」
「おい待てコラ! 僕はお前に言われてあそこに行ったんだぞ! まさか最初から全部……」
「嘘だが?」
愕然とするキースの様を見て、クローバーは鼻で笑った。
「しかし、お前これから大変だなァ?」
「……どういう意味だよ」
「そのままの意味だ。あの家に行って無事に帰ってきた奴はいない。なのに、お前は傷一つついてない。という事は、お前は連中の仲間って事だ。民衆もお前がスミスの連れだと思うだろう」
「なっ……!」
つまりは、策略か。目的はわからないが、こいつは二重三重にも嘘を吐いたらしい。
銃口を突きつけられながら、キースはぐるぐると思考を巡らせた。
もうこの国に自分の居場所は無い。
待てよ、じゃあ俺これからどうすればいいんだ?
ホテルや民宿に泊まろうものなら通報されて即逮捕。
高飛びしようにも、追い剥ぎにあったばかりで持ち合わせも少ない。
資金集めするにも行くあてがない。住み込みで、尚且つ 世俗に疎い連中がいるのが条件で働かせてくれる所なんて――
……いや、ある。
山のクズ工場だ。もうあそこしか頼りはない。
民衆が便利屋の連れだと思ってるなら尚更だ。 畜生、こんな国来たのが間違いだった。
というより、こんな会って間もない男の言う事を真に受けた自分が馬鹿だった。
「一つ聞いていいか……何でこんな事した? っつーか、何で僕なんだ。ただのからかい半分にしちゃやり過ぎだよな」
「あァ……上層部でスミスを殺すか更正させるか出来るか賭けててな。お前は色々と都合がよかったから選ばれた、それだけだ。まァせいぜい上手くやれ。その内テッドの情報もくれてやる」
「この流れでそんな事言われて、信じるわけねぇだろうが!」
「信じるか信じないかはお前次第だ。ちなみに警察に手回ししてちゃんと指名手配もしてある。ほら」
鼻先に突き出された紙には、忘れもしない。
キースが入 国早々追い剥ぎにあった時の、パンツ一丁の写真。
懸賞金はずいぶん安い。二つ名は『カトリーヌを探して三千里』。
「カトリーヌって何だよ!!」
「知らねェ」
色々ツッコみたい所はあった。
が、そんな暇を与えるほどクローバーは優しくなかった。
「撃て」
「ぎゃぁあああ!」
射撃音と共に、キースは近くの窓を突き破って逃走した。
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