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「僭越ながら、カルロス様のメモリーを拝見させていただきました。お母さまの料理が大変お気に入りでしたようなので、再現してみました。私なりのアレンジも加わってしまいましたが、お口に合いますでしょうか?」
女は俺の横に立ったまま、淡々と告げる。俺は、返事をすることができなかった。
胸が詰まった。フォークを握ったまま、口内に残る懐かしい味に意識を奪われていた。
どうしてこうも、母の味にそっくりにしてくるんだ。多少違うところもあるのに、こんなにも心を揺さぶられるのは何故か。
自然と、涙が零れていた。情けないくらいに、ポロポロと。
「……あぁ、そうだな……情けなく泣いちまうくらいの味だな」
不味いと言いたげな言い方だったのに、女は「良かったです」と人間らしい顔で笑った。
俺はみっともなく食事にがっついた。口に放り込む度に、遠い昔のように感じる記憶が流れ込んでくる。忘れていた人の温もりと、母親からの愛情。それから、他者への優しさ。それらを全て、俺はこの朝食を通して体内に取り込んでいる。
美味しい。
あまりにも優しい味だったから、手が止まらない。
涙も、止まることを忘れてしまった。
まだ、涙なんて流せたのかと俺はフォークを置いて目を擦る。機械に支配されつつある冷たい国で、さび付いた心が、その温もりで溶けていくような気がした。
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