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……いいことを思いついた。
アンドロイドを動かすために最も重要な部品――心臓であるエネルギーポンプは、非常に高価な素材でできている。コイツはまだ動いているし、エネルギーポンプは正常に機能しているはずだ。だったら、コイツを停止させてあれを売ってしまえばいい。一ヵ月の食費など余裕で得られるだろう。
我ながら、飢餓状態で頭が回るとは思わなかった。もう、ここまで落ちたならば何も怖くない。薬か非行に走ろうと思っていたくらいだから、今更アンドロイドを殺して、人間で言う臓器売買を行ったってなんてことない。
俺は力を振り絞って立ち上がる。俺の意図など知らずに近づいてくる哀れな機械の両肩を掴み、俺は心臓がある胸の中心部分に手を伸ばそうとした。
「……待って、くださいませんか」
多少ノイズが混じった、か細い女の声が耳奥をくすぐった。反射的に手が止まり、至近距離で機械の瞳を覗き込む。
「私は、家事専用の、アンドロイド。よろしければ、ご奉仕させてくださいませ」
「はぁ?」
「一日だけ、あなたをご主人様に、させてください。奉仕活動を、最後にさせてほしいのです」
女は心臓を抉り取ろうとした俺の手にそっと触れて、無機質な声で言う。俺がコイツを停止させようとしたことなど、予測機能もあるアンドロイドであれば理解しているだろう。そのうえで、この機械は自らの願望を口にしたのだ。
どうせそれも、プログラムされた台詞を組み合わせただけのものだろうが。
「お食事、お洗濯、何でも致します。私は、家事専用アンドロイド」
「へぇ、食事を用意してくれるって?」
「もちろんで、ございます。あなた様をご満足させる、お食事を、ご提供いたします」
人語を話す奴隷は、パチパチとすり切れた機械の音を響かせて言った。
金になる材料も手に入って、おまけに空腹も満たせるとは、俺は相当ツイているらしい。馬鹿な金持ちどもめ、俺はここから這い上がってやる。
「いいぜ、一日だけ待ってやる。おら、早く案内しろ」
堕落した人間の顔でニヤリと意地汚く笑えば、アンドロイドは微かに口角を吊り上げてぎこちなく頭を下げた。
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