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どこにでもありそうな、茶色の屋根の平屋。所々、塗装の禿げた小さな家に俺は案内された。周囲の家に比べて廃れた印象を受けるが、以前はおそらく綺麗だったのだろうと、中に入って思った。
配置された家具は、両親がまだ生きてて金もあった頃に家で見たようなものばかりだった。中でも、細かな装飾が施された背の高い本棚は、素人の俺から見ても価値がありそうで、小難しそうな本がぎっしり詰め込まれている。リビングに置かれたテレビやソファ、キッチンにある道具の全てが、舞台のセットのように綺麗に置かれていた。
だが、人の気配はどこにもない。アンドロイドは、人間の所有物だから、必ず人間がいるはずなのに。これほど整った家であるならば、主人が居てもおかしくないはずだ。管理者のいないアンドロイドなど聞いたことがない。
「どうぞ、こちらへおかけくださいカルロス様」
女が、俺の名前を呼んでキッチンの椅子をゆっくりと引いた。
「もう俺のこと調べたのか」
「お名前が分からなければ、業務に支障をきたしますので」
「そうか」
アンドロイドにはスキャン機能がついている。人の名前や年齢、職歴、生年月日、それくらいのことは一瞬で分かるらしい。プライバシーもへったくれもない。だからアンドロイドは嫌いだ。
「少々、お待ちください。ただいま、お食事をご用意いたします」
女は壊れかけた目を瞬きさせて、丁寧な口調でそう言う。本当に大丈夫なのだろうかと不安になったが、家事専用のアンドロイドといえば、最も人気が高く高性能なロボットだ。壊れかけとはいえ、料理くらいは簡単にするだろう。
「なぁ、この家に人は?」
食事ができるまでただ黙って座っているのは退屈だ。エプロンをして調理台に向かった女の背中に質問をぶつけてみた。
「いません」
「お前も誰かに買われたんじゃないのか?」
「もちろん、ご購入いただいてこの家に参りました。ですが、ご主人様は一ヵ月ほど前に出て行かれました」
冷蔵庫から食材を取り出しながら、女が淡々と告げた。
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