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「何で?」
「お金に、余裕がなくなったからでしょう。アンドロイドには、場合によっては整備費がかかります。一番多い例で言えば、故障。もちろん、余程のことがない限り故障はしませんので、普通ならば整備費は、かかりませんけれども」
まな板を取り出した女が、ザクザクと何かを切り始める。おそらく野菜か何かだ。フレッシュな小気味いい音が響いてくる。少しだけ、包丁の音が苛立ちをはらんでいるような気がしたが。
「じゃあ、壊れてたけどお前は直してもらえなくなったってことか?」
「そういうことになりますね。ですが、ご主人様は自ら私を壊し、自ら大金をはたいて私を修理していました」
「……あぁ、なるほど」
俺はその一言で理解した。
コイツは、所謂ストレス発散の道具にされていたのだろう。世の中には、アンドロイドをただのガラクタとしか思っていない輩が一部いる。コイツは運悪く、そんな人間に買われてしまったのだろう。だから、こんなボロボロな見た目をしているのだ。
「ご主人様の目的は分かりませんでした。私はプログラム通りに家事全般を行い、言いつけをきちんと守りました。ですが、ご主人様のお気に召さなかったようです」
「そりゃお前、主人とやらが最低な野郎だったってことだ。元々、家事をやらせるだけのために買ったわけじゃないんだろうよ」
「私は家事専用アンドロイドなのにですか?」
「関係ねぇよ。どうせ、見た目が人間なら何でも良かったんだろ。お前もツイてなかったな」
フライパンを取り出してテキパキと料理を進める女に、意地悪く笑ってやる。アンドロイド如きに同情するわけではないが、金のあるヤツに拾われておきながら、破壊寸前まで痛めつけられているのは、さすがに運がないなと思う。
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