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「ですので、あなたに会えて良かったと思います。最後のご奉仕ができるのは、たいへん光栄なことですね」
「それ終えたら売られるっていうのに、呑気だな」
「家事をすることだけが、私の存在意義ですので」
「へぇー、さすがアンドロイド様だ」
振り返った女に皮肉めいた声で言ってやれば、何故か微笑まれる。憎まれ口が効かないのは、やはり腹が立つ。どうせその微笑も、プログラムされた通りに顔の部品を動かしているだけなんだろと胸中で吐き捨て、俺は頬杖をついた。
「カルロス様、少しだけお話してもよろしいでしょうか?」
「それもプログラムの一部か?」
「いえ。単純に私の『興味』です」
女は再びフライパンの方に視線を戻すと、音がぷつぷつと途切れた声で言う。アンドロイドが興味、ね。そんなことあり得ないと思いながらも、俺はぶっきらぼうに「勝手にしろ」と、段々と良い香りが満ち始める部屋の中で夢見心地な気分になった。
「あなたは、元メカニックのようですが、お仕事はどうされたのですか?」
いきなり切り込んできやがったな。
女は背を向けたまま、俺が目を吊り上げたことも知らずに料理を続ける。仕事という単語を聞いて、腹の奥がムカムカした。
「やめさせられた。今じゃ機械の整備もほとんどアンドロイドがやるからな。俺は技術も頭も平凡だからいらねぇってすぐさまクビだ。それが嫌なら無償で働けってよ。馬鹿じゃねぇの、金なしで誰が働くかってんだ」
感情も何もないアンドロイドに向けて、俺はぶつくさと愚痴を垂れる。誰にもぶつけられなかった理不尽な解雇の話だ。ぶつけるのにいい相手が出来たとほいほい口を開く俺は、コイツを捨てていったクズ主人と同じなのかもしれない。
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