9人が本棚に入れています
本棚に追加
「……お話はこれくらいにいたしましょう。お待たせいたしました、今そちらに並べますね」
女は話を切り上げて、完成した朝食を俺の前に運んでくる。コト、と小さな音と共に置かれたのは、白い皿と、スープが満たされた器、そしてナイフとフォーク。皿には、良い具合に焼けたマフィンの上に香ばしいベーコンと卵が乗せられたエッグベネディクトが乗っている。食欲をそそるオランデーソースが上からたっぷりかかっていた。器には、野菜がごろごろと入った、いかにも体に良さそうなスープが輝きを散らしながら揺れている。
「……すげぇな」と素直に感心した。久方ぶりの食事にありつき、俺は早々に手を合わせて挨拶をした後、ナイフとフォークを持つ。静かにエッグベネディクトにナイフを入れれば、ふわっと温かな湯気が弾ける。涎が溢れかえった。我慢できず、俺はすぐさま食べやすい大きさに切ったそれを口に運んだ。
その瞬間だ。
鼻の奥がつんとして、頭の奥からふわりと優しい何かが湧き出てきたような気がした。舌先に広がるノスタルジックな味に、いつかの記憶が呼び起こされたのだろう。
これは、だって、これは……。
最初のコメントを投稿しよう!