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工と、黒い噂。
早峰紫月は今、猛烈に後悔している。
人生最大、とまでは言えない。毎日のことだからだ。
とは言え、人生最大に並ぶ出来事が毎日のように起きている。こんなことになるなら――こんなことになるって分かってたら、関東に就職なんてしなかったのに。
大学を卒業後、生まれてからずっと住んでいた地元・福岡を離れ上京した。
当時は両親の干渉が煩わしくて、1秒でも早く親の干渉を受けないところに行きたかったのだが。
あの頃の甘っちょろい考えを持っていた自分を、ぶん殴ってやりたい。
白塗りのオフィスが並ぶ開発センターの一角。
P棟と呼ばれる企画開発担当地区の第2棟、8階。真っ白な机の上に並べられた大量のパソコンと、それとにらめっこをする同僚たち。
異質な空間だと思う。でも、もうそんな感覚も鈍ってしまった。何がおかしいのか、今の私には分からない。
「三枝! 聴いてんのか、お前はっ。お前のために説明してるって分かってんのか!?」
オフィス内に響き渡る怒号。
チームリーダーの塚田さんが、40代半ばに差し掛かったであろう先輩の三枝さんを相手に怒鳴り散らしている。
後ろの座席で繰り広げられる恐怖の叱責に、私は目を閉じて身震いをした。
――パワハラだ。こんなの。
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