葦屋、参上。

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 工がやっていた恋人ゲームのことを、葦屋は知っていた。つまり、菜摘の言っていたことは正しかったわけで。  何も言わない私を見て図星だと判断したらしい葦屋は、態とらしく咳払いをする。 「ねえ、紫月」 「……なに」 「お前は、まだ工くんのこと好きなの?」 「どうしてそれを……」 「顔に書いてあったから」 「えっ」  思いっきり狼狽える私を見て、葦屋は真顔のまま言葉を続けた。 「冗談。でも、紫月を見てたら分かるよ」 「そ、そんなに分かりやすいかな」 「どうだろう。案外みんな気付いてなかったよ。あの学科は恋愛初心者ばっかだったし。だから、工くんが恋人ゲームをしていたことを知ってる人も少ないんだろうね」  ま、恋愛初心者は俺もだから、人のことは言えないんだけどさ。  彼はそう言って目の前にあったコーヒー入りのグラスを握ると、勢いよく煽る。あんなに苦手そうに飲んでいたのに大丈夫なのだろうか。 「にっが」 「そりゃそうでしょ。いきなりどうしたの」 「紫月が未だに工くんのことを引き摺ってるみたいだから。俺が断ち切ろうと思って」 「どうして……」  予想外の答えが返ってきて、自然と眉間に皺が寄る。葦屋は私の眉間に指を伸ばすと、パチンとデコピンをした。さほど痛みは無いが、驚きのあまり目を見開く。  私の様子が愉快だったのか、葦屋はケラケラと笑った。 「笑い事じゃないから」
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