3人が本棚に入れています
本棚に追加
工がやっていた恋人ゲームのことを、葦屋は知っていた。つまり、菜摘の言っていたことは正しかったわけで。
何も言わない私を見て図星だと判断したらしい葦屋は、態とらしく咳払いをする。
「ねえ、紫月」
「……なに」
「お前は、まだ工くんのこと好きなの?」
「どうしてそれを……」
「顔に書いてあったから」
「えっ」
思いっきり狼狽える私を見て、葦屋は真顔のまま言葉を続けた。
「冗談。でも、紫月を見てたら分かるよ」
「そ、そんなに分かりやすいかな」
「どうだろう。案外みんな気付いてなかったよ。あの学科は恋愛初心者ばっかだったし。だから、工くんが恋人ゲームをしていたことを知ってる人も少ないんだろうね」
ま、恋愛初心者は俺もだから、人のことは言えないんだけどさ。
彼はそう言って目の前にあったコーヒー入りのグラスを握ると、勢いよく煽る。あんなに苦手そうに飲んでいたのに大丈夫なのだろうか。
「にっが」
「そりゃそうでしょ。いきなりどうしたの」
「紫月が未だに工くんのことを引き摺ってるみたいだから。俺が断ち切ろうと思って」
「どうして……」
予想外の答えが返ってきて、自然と眉間に皺が寄る。葦屋は私の眉間に指を伸ばすと、パチンとデコピンをした。さほど痛みは無いが、驚きのあまり目を見開く。
私の様子が愉快だったのか、葦屋はケラケラと笑った。
「笑い事じゃないから」
最初のコメントを投稿しよう!