葦屋、参上。

7/9
前へ
/16ページ
次へ
「……工がそんなことしてるって信じたくなかったけど、麻里の件を考えると納得出来た」  葦屋は麻里が工と付き合ってること、知ってた?  そう尋ねると彼は無言で頷く。そして、口を開いた。 「俺も信じたくなかったんだけど、工くんは予備校時代の奴らとつるんで恋人ゲームをしてたのは事実だと思う。彼女取られた奴もいるから誤魔化せないよね」 「何にも知らなかった」 「……」 「そんなことするやつだったのに、何で私のことは彼女にしてくれなかったんだろう」  悔しがるのが正しい感情なのかは分からなかったが、それでもそう思わざるを得なかった。間違いなく、私は工のことが好きだったのだから。  例えそれがゲームの相手だとしても、麻里に負けたことが悔しかった。  私のことも選んで欲しかった。 「――俺は、紫月が工くんと付き合わなくて良かったと思ってるよ」 「それは、どうせ振られちゃうから?」 「お前が苦しむから」  大学1年の時のことを覚えてる?  葦屋の言葉に、私は何の話だろうと首を傾げた。彼は小さく鼻で笑うと、思い出すように言葉を繋ぐ。 「サークルで紫月が号泣したことがあっただろ?」 「それは悪しき記憶でございますね」 「忘れろって言われたけど忘れられなくて。友達と喧嘩してあんな真剣に泣いてるやつ、久々に見たよ」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加