工と、黒い噂。

2/6
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 三枝さんが訴えたら間違いなく塚田さんの首が飛ぶぞ、と心の中で思いながらも、顔に出ないよう表情筋を酷使する。  もう慣れたが、限界も近い。  大手自動車メーカーに務めて半年。  アットホームな職場で、上司に媚びを売りながらも、同期や先輩たちとワイワイしながら仕事に励む。そのつもりだったのだが。  現実は甘くない。私の目論見は秒殺され、過酷なパワハラ現場に送り込まれた。無理。  聴こえないふりをしながら、メールボックスの中身を確認する。そこには一斉送信で送られた、先輩からのメールが届いていた。 『本日を持って、退職することとなりました』  ――そりゃないぜ、ジーザス。  顔を上げると、デスクの離れた送り主の先輩を見る。青白い顔と目の下に刻まれたクマが、見ていて痛々しい。  先輩もパワハラを受けていた。  塚田さんじゃないけど、先輩の班の主任に怒鳴られていたのは記憶に新しい。  20代の先輩たちの表情を伺うも、その顔色は悪い。私はその日、仕事を辞める決心をした。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!