工と、黒い噂。

3/6
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「そんなわけで、仕事辞めることにした」  翌日。  東京のとある喫茶店で10年来の友人である青葉(あおば)菜摘(なつみ)と向かい合っていた私は、そう口にした。  突然のカミングアウトに、菜摘は眉を八の字にする。そして、目の前に置かれたアイスティーのグラスを数回かき混ぜ口を開いた。 「それって、決定事項?」 「うん。ごめん、菜摘には悪いと思ってる。でも、このまま死ぬのは絶対に嫌だから」 「……そっか。そうだよね。私も紫月がこれ以上壊れていくのは見たくないもん。福岡帰ったときは絶対に遊んでよ」  不安げな彼女の表情を見て、一瞬意志が揺らぎそうになる。  九州から出てきた私たちにとって、頻繁には会えなかったとしても、お互いが関東にいるだけで安心出来るのだ。  私なんかは特にそうで、何があれば菜摘を呼び出してはカラオケで荒ぶったのは記憶に新しい。  そんな相手が居なくなる。想像しただけでも私は嫌だし、その辛さを菜摘に押し付けているのは分かっている。  ――でも、私はまだ死ねない。  あんな職場で酷使されて、関東に骨を埋めるなんて真っ平御免だ。 「もちろん、絶対に遊ぼ。約束ね」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!