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揺らぐ心を振り払うように、目の前にあるアイスコーヒーを呷る。通りかかった店員を呼び止め、追加でオレンジジュースをオーダーした。
口内に残る苦味に不快感と懐かしさが入り交じり、深く息を吸い込む。そして、ゆっくりと吐き出す。
「紫月」
「ん?」
名前を呼ばれ顔を上げると、彼女と目が合った。
私は何?と先を促す。菜摘は、先程までコーヒーの入っていた私のグラスを指差し口を開いた。
「コーヒー、やっぱり苦手なんだね。飲むのやめたらいいのに」
「そうだけど……なんか、飲むの止められなくて」
「まだ引き摺ってるんだね。彼のこと」
菜摘の言葉に息を呑む。
コーヒーを飲み始めたのは、学生時代の同期――逢沢工の影響だった。
超甘党の私も、彼の真似をしては飲み慣れないコーヒーをよく口にしていた。コーヒーを頼んでしまうのは、そのころの名残りなのだが。工のことを、私は未だに忘れることが出来なかった。
工はどこか冷めたところがあったけど、優しい奴だった。その優しさに触れた私は、ごく自然な流れで恋をした。初恋だった。
別に初恋だから引き摺っているわけじゃない。
どこでだって初恋は実らないって耳にしていたし、最初は彼の特別になりたいとすら思ってはいなかった。
側に居られればそれで良かった。仲のいい友達として彼の記憶に刻まれるだけで良かった。
――んだけど。
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