工と、黒い噂。

5/6
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 彼の側にただ居たい。その想いでは、割り切れない事件が起こった。  同じ学科、同じクラスの扇田(せんだ)麻里(まり)。彼女に誘われて工と同じサークルに入った私は、ことあるごとに工にアピールする麻里の姿に真っ黒な劣情が浮かんだ。  彼女が工の特別になるのが嫌で、ことあるごとにアピールした。必死だった。  そのかいあってか、私と工の仲がそれなりに進歩した。彼の帰宅路に私の家があったことも幸いして、2人で通学したり無駄なことでメッセージを送り合う程には仲が良かった。名前も気付けばお互いに呼び捨てしあっていた。  ところが、麻里の放った一言で環境が変わる。私と付き合っているのかと、サークル活動中に口にしたのだ。みんなが聴こえるほどの大きな声で。 「んなわけないだろ」  彼の言葉に、息を呑んだ。  照れ隠しだったのかもしれないけど、その時の私にとっては工に否定されたことが全てで。  以降、彼に関わることを辞めた。同じ空間に居ることが辛くて、入っていたサークルも麻里に内緒で辞めた。それが精一杯の拒絶だった。  程なくして、彼女が工と付き合うことになったと聴いたとき妙に納得した。私を工から遠ざけるためにやったのだと気付いたが、後の祭りだった。 「今でも思うよ。あのとき、諦めなかったら良かったのかなって」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!