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そう言って笑みを作るも、職場を思い出し小さく溜息を吐く。
楽しかった学生時代の記憶とは対照的なそれを口にするのも嫌で、何を話そうかと考えを巡らせる。しかし、すぐに考えるのを辞めた。
――逢沢工は、恋人ゲームをしている。
菜摘の言葉がフラッシュバックして、咄嗟に口を右手で覆う。私の異変に気付いた葦屋が、大丈夫かと顔を覗き込んだ。
「ちょっと疲れたのかな」
気にしなくて良いから。
そう言って笑顔を貼り付ける。しかし、学生時代からよく気付く彼には無駄なようで。腕を掴まれカフェに連行された。
室内は空調が効いていて、先程まで外にいたためか少し蒸し暑い。
葦屋に振り回されるままカウンターへと向かうと、彼は私を見て口を開いた。
「何飲む?」
「コーヒー」
「……コーヒーと、オレンジジュース1つで」
私が財布を出すよりも前に葦屋は会計を済ませてしまい、そのスピード感に完全に置いていかれた私は彼の指示通りに動く。
椅子に座り、葦屋と向かい合うこと一分。彼は沈黙を破るように口を開いた。
「仕事は何してんの?」
「まあ。車のエンジンやってるよ」
「お前って、さり気なくいつも重要なポジに居るよな」
「葦屋代わってよ」
「断る。車は俺も苦手分野だ」
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