葦屋、参上。

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 肩を竦め、コーヒーをストローで混ぜる葦屋。私は目の前に置かれたオレンジジュースに口を付ける。  彼は知っていた。私がコーヒーが苦手だと言うことを。  オレンジジュースをくれるつもりだったのに、何故彼がコーヒーを頼んだのかは分からない。シロップとミルクを大量投入しているのだから尚更に。 「……ごめんね」 「何が?」 「コーヒー、苦手なんだよね」 「飲みたい気分だっただけだから、紫月が気にすることじゃない」  葦屋はそう言って、キャラメル色になったコーヒーを口に含む。  眉間に皺が寄っている辺り、やはり苦手だったのだと確信する。が、それを指摘することはしなかった。それは、きっと彼の優しさを茶化す行為になってしまうから。  ――葦屋を好きになれたら良かったのに。  不意にそんなことを思い、首を横に振る。  葦屋は優しいし、良い奴だ。大学を卒業したときこそ彼女の影は無かったが、あれから半年がたったのだ。今は居たっておかしくない。  軽い気持ちで好きになれたら良かったのにと思うのは、彼女に失礼だ。 「お前、何百面相してんの」 「ちょっとね」 「そこまで言うなら言えよ。気になるだろ」
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