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<13>
「たっだいまぁ~、親父ィ。南さんさ、どこにも居ないけど。親父知ってるか?」
翌朝友人宅からいったん帰宅した輝が、南が居ない事を不審がって父の部屋にやって来た。
・・・・が。
その声で目が覚めた南は、大熊の自室のベッドの上で全裸。
大熊に至っては、全裸で南を抱きしめた状態で未だいびきをかいて爆睡していた。
南が慌てて、身体を起こそうと大熊の腕に手を掛けたのだが。
(大伍さんの腕、重くて・・・!)
その瞬間、無慈悲に扉は開かれた。
「ひゃあっ・・!」
南が小さな叫び声をあげ、咄嗟のバカ力で大熊の腕を引っぺがして身体を起こした。
だが、薄掛け毛布を胸に当てているだけ。
眼鏡も外し、ピンで軽く止めている髪もおろしたままの南は、輝には刺激が強すぎたようだ。
「うおっ・・・!な、な、な、ちょ・・・ええ?!」
輝は精一杯、しどろもどろで謎の言葉を吐き出しつつ口元を押さえ、数歩後ずさった。
・・・その顔は見る間に真っ赤に染まった。
しかしそれは南も同じ。
「あっあの、その・・。あっ、ご飯の支度が未だだった!今すぐ用意するから・・」
南はどうにか取り繕うと、ベッドの端に引っ掛かっていた大熊のカッターシャツを引っ掴み、素早く被る様に着て、ボタンを三つほど留めて立ちあがった。
だが、立ち上がった瞬間。
南の身体の奥から、何かが込みあがって来て・・・ふるふるっと震えた。
「あ・・・ンンッ・・」
「うわああ・・・ヤバイ!」
輝が急にそう叫びながら視界を手で覆い、顔を背けてしまった。
もはや顔は、真っ赤を通り越してゆでだこの様だ。
何が何だかわからない南が、輝に尋ねる。
「ど、どうしたの?何がやばいの?」
「ななな・・何がって!南さん、股・・・・うわあああ!」
そう叫ぶとまた、両手で顔を覆ってしまった。
南が恐る恐る股間を覗くと・・・。
昨夜大熊によって南の子宮に注ぎ込まれたモノが、つうっと糸を引きつつ垂れて来ていたのだ。
(・・さ、さっきのって・・・)
南は余りの事に、思わずその場に股を押さえてへたり込んでしまった。
「ふぅああぁ~・・・・・。おう、帰って来てたのかきらり」
ようやく大熊が目を覚ましたのだが、その時点で何かもう色々な物がごちゃごちゃになっていたのだった。
「ずりい、ずりいよ!何で俺だけハブられてんだよ!」
取りあえず全員で下のリビングに降りたのだが・・。
輝はどうにも納得できずに、父親である大熊に食って掛かっていた。
「んな事言われても、なあ・・・」
大熊はパンイチで胡坐をかき、頭をぼりぼり掻きつつ南をちらっと見た。
南はというと、あの姿にエプロンを掛けてお茶を準備していた。
無論、あの直後にパンツもどうにか発見して慌てて履いた。
「お待たせ、緑茶でよかったよね」
「うっす」
「ハイ、大熊さんにも」
「サンキュ」
南が輝にマグカップを手渡しし大熊にも差し出すと、大熊は片方の手でマグを受け取り、もう片方の手を南の股間に差し込み、太腿を厭らしく撫で回した。
太腿に大熊の手が触れた瞬間、思わず南は変な声を上げつつ悶えてしまった。
「ひゃうっ!だっ、だめです・・・こんな所で!」
だが大熊は輝に見せつける様に、しゃがみ込んで太腿に顔を摺り寄せて口づけた。
「もうこの肢体は俺のモノだ。・・いいだろ、すっげえ気持ち良かったぞ。めちゃくちゃ可愛かったしな~」
「ひでえよ、二人共!よりによって、俺が留守の時狙ってさぁ~!」
口を尖らせる輝に、南は必死の反論をする。
「違うよ!昨日は偶然色々あって・・・。結果、こうなっただけで・・・・うわ!」
咄嗟に大熊が南の腕を引っ張って手繰り寄せ、その口を大熊が唇で塞いでしまった。
「ンンッ、駄目です・・きらり君の前で・・・・」
南は必死に反発しようとするが、
「良いんだよ、こいつはこうでもしねえと判らねえぼんくらだからな」
そう言って南を強い力で抱きすくめてしまった。
「・・ああっ・ん・・!」
「・・このまま、もう1ラウンド・・・」
そのまま濃厚なキスシーンを散々息子に見せつける父に、輝がブチ切れた。
無理やり大熊を南から引っぺがし、南を思いきり抱き締めた。
「まだアンタの物とは決まってねえだろうが!」
「じゃあ、孝生に聞いてみればいい」
大熊はちらりと南を見つめた。
そうは言っても、この状況。
南は今、輝の腕の中で身動きできない位がっちりと抱きすくめられている。
そして、南を輝は・・怒りとも焦燥ともつかない顔でじっと見つめていた。
「ねえ、俺を選んでよ南さん。勢いでやっちゃった一回なんて、セックスの内に入んねえから。俺・・・気にしねえからさ、だから、俺を選んで」
必死に縋るその頬に、南は軽く口づけた。
「「好き」って言ってくれて、ありがとう。でも・・・ごめんね」
南がそう言い終わった直後、輝は南を押し倒した。
「じゃあせめて一回だけさせて。思い出作りに」
「ええっ?!だっ・・だめだよそんなの」
「いいじゃん、一回位やった内に入んねえって」
「・・・いくら何でもそれは無いよ」
流石に、輝の余りにぶっ飛んだ発想に南も呆れた。
直後、輝の後頭部に大熊のげんこつが直撃する。
「いい加減にしろ、孝生が困ってるだろうが」
「いえ、そういう問題じゃ・・」
「良いだろケチ!俺ら育ち盛りの性欲なめんな」
「だから、そういう問題じゃ・・・」
「だったらやってる所見せてやるから、その辺で擦っとけ」
「だから・・・」
「何抜かしてやがる、チンコは突っ込むモンだろうが!」
「・・・・・・」
「だから言ってるだろ、お前のはその辺のお姉チャンにでも突っ込んどけって」
「ハッ、冗談じゃねえ。こんなえっっろい格好した南さん腕に抱いてて、他のオカズなんか目に入んねえよ!」
南はその言葉の直後、輝の拘束を振り解き、立ち上がった。
そして二人を交互に見つめながら、冷たく言い放った。
「・・・いい加減にして下さい、貴方達にはもうこりごりです。・・・僕は一旦、実家に帰ります」
その時の南の表情は・・・氷のようだった。
その後、南が自室で荷物をまとめ始めると、二人が慌ててすっ飛んできて床に這いつくばり、必死に土下座した。
「スンマセン、ほんの出来心なんです!」
「舞い上がって調子に乗り過ぎた。謝る、謝るから!出て行くのだけは勘弁してくれ!!」
「お願い、許して!!」
「この通り!!!」
(・・・本当に、この親子はそっくり)
南は呆れ気味に噴き出してしまった。
「・・・てな事があったんですよ。もうあの人達は・・・」
下高井戸駅前のカフェで、南が溜息を吐きながらそう話していた相手は・・。
以前、輝の知恵熱で世話になった小児科医の高萩涼真だった。
高萩は一見確かにチャラい。
どうやら彼もアルファらしく、引き締まった細身の体にいかにも女子ウケしそうな、パーツ一つ一つが整った綺麗な顔が乗っている。
髪は、ミディアムヘアを金赤に染めて、毛先にパーマを当てている。
上背も高く、180センチを超える輝よりもさらに数センチ高い。
ファッションは、雑誌「レオン」をそのまま切り取ったかのような・・・。
確かにおしゃれではあるのだが、どこかニュアンスが違う。
今年32という年齢を考えるのなら、もう少しファッションも落ち着いていた方がベストだろう。
「あの親子、思考が全く一緒だからねぇ・・。それこそ、「双子か!」って位」
「ええもう・・。あの二人、外見は似てないくせに中身はそっくりだから。本当、何時も僕をネタに喧嘩ばっかりして・・・やんなっちゃう」
南は、いかにも甘ったるそうな生クリームてんこ盛りのプラスチックカップのオーレ片手に、再び溜息を吐いた。
しかし、高萩の猛アタックに困っていた筈の南が、なぜ一緒に居るのか。
無論、当初は高萩の誘いを断るつもりだったのだが・・。
そうは言っても互いにご近所さんの為、買い物帰りにばったり出会ったり、出かける方角が一緒だったり。
何だかんだで結局、高萩とは月一でカフェで落ち合う仲になっていた。
「そういえば、高萩さんは何時も僕に甘いオーレを頼んで下さるのに、ご自身はブラックのコーヒーしか頼まないんですね」
「ああ・・俺は甘いの駄目なんだ。”甘い物”はそこまで嫌いじゃあ無いけど、”甘い飲み物”が苦手、って奴」
高萩は軽く笑いながら、コーヒーカップをトレイに置いた。
「南君のそれは美味しいかい?・・相変わらず甘そうだけど」
「ああ・・季節限定のマンゴーですね。僕フルーツ大好きなんで、これも美味しいです。・・どうですか、僕のでお嫌じゃなければひと口」
高萩にそう振ると、何故か照れ笑いしつつ・・
「・・・じゃあ、一口」
と断りを入れて、南の差し出した手から一口ごくりと飲んだ。
その表情は・・・微妙に引き攣っていた。
「美味しい・・・かな、うん」
直後に、コーヒーを一気飲みしていた。
・・・確実に苦手の様だ。
「・・だめでしたか、残念」
そう笑いながら、南は高萩の口の端に付いてしまったクリームを紙ナプキンで軽く拭った。
「・・・君のそう云う所」
「・・・えっ?」
高萩はクスリと微笑んだ。
「君は無自覚な「人たらし」なんだね。君にそうやって甲斐甲斐しくされると、誰でもドキリとしてしまう。きっとあの大熊親子も、そうやってガードが解けちゃったんだね」
「・・・・それって、どういう?」
「・・ああ、君は知らないのか。大熊の親父さん、ずっときらりの母親を忘れられなくて、結局あの年までバツイチのまんま。言い寄るオンナは多かったけど、なびく事は無かったな」
「そうなんですか・・・」
「大熊の親父さんて、業界人っていうのもあるけれど、あの人相当女にも男にもモテるんだよね。きらりもあの見た目でモデルしょ?あいつが女を切らしてるの、見た事無いもんな、俺」
「・・・へぇ」
高萩の顔をまじまじと見つめつつ話に聞き入る南に、高萩が思わず噴き出した。
「ぶふっ・・・、何か大学の特別講義かなんかを聞いてるみたいな顔してたよ?」
「そ、そうでしたか・・・」
顔を赤らめつつ俯いてしまった南に、小さく呟く。
「そうかぁ・・・、君は遂に大熊の親父さんと最後までいっちゃったんだ」
「・・・えっ?」
流石にその一言に、南が慌てて真っ赤に染まりきった顔を上げた。
目が、完全に泳いでいる。
「どうして・・・言ってないのに」
「だって。相思相愛なんてさ、大人同士で行き着く所なんてセックスしか無いじゃない」
余りに的確な一言に、最早ぐうの音も出ない。
ふいにトレー片手に高萩が立ち上がり、再び顔を赤くしたまま俯く南の頬に軽くキスをした。
「ひょあっ・・!」
「それじゃあ、また」
・・・高萩がキスと共に呟いた小さな「残念」と云う言葉は、どうやら南に聞こえてなかった様だ。
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