大熊座の親子

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<8>  その後、新学期が始まってからの輝の勉強への打ち込み様は尋常ならざる物だった。  (春休みも、早朝から深夜までずっと勉強漬けだったしな・・一体どういう心境の変化なんだろ)  輝はあれからバンド活動も一年間は止めると宣言し、大熊にもモデルの仕事を減らして欲しいと頼み込んだそうだ。  その結果は如実に表れているようで・・。  「やったね、テスト結果の平均、確実に上がって来てる!」  南はそう言って手放しで喜んでいたが・・。  「いいや・・・まだまだっすよ」  輝にはまだ満足できる点数ではない様で、いつも浮かない顔をしていた。  そして、そんな表情の時は必ずと言っていい程、”ミーティング”と称して、南を自室に連れ込んだ。  そして、必ず行われるのが・・・・。  「駄目だよ、君はまだ高校生なんだから!こんな事・・・・・」  「何言ってんの、こんなのじゃ今時の青少年は満足出来やしないっつーの。いい加減諦めてさ、そろそろ俺にヤらせてよ」  「ン・・・・ウーーーっ・・」  大抵、部屋に入るなりベッドに仰向けに押し倒され、両腕を掴まれて自由を奪われ、何度も何度も唇を奪われるのだ。  最近は首筋を舐められたり吸われたり、耳を何度も甘噛みされたり・・。  余りにも執拗なので、身の危険を感じて何度か本気で怒った事があった。  「こんな事・・僕がオメガだからって、馬鹿にしてるの?!」  渾身の力で輝を押し返し、そう怒鳴りつけた。  だが、輝はその都度真顔で  「いいや、俺はすこぶる本気だけど。何ならこのまま最後までしていい?」  と一蹴されてしまった。  それからはもう輝のなすがまま、行為もだんだんエスカレートして来ていた。  しかしそれも無理からぬ事だ。  輝の身長は180センチ超、体重も70キロを優に超えている。  それに比べ、南の身長はせいぜい160センチ強、体重も45キロしかない。  身長に加え、それだけの体重差があるのならもう勝ち目はないに等しい。  今日は、遂にシャツのボタンに手が掛かった。  「うわ・・・か~わいいピンク」  「はぁ・・・・ああああっ!ダメ・・」  ボタンを数個開けられてしまい、露になったピンクの突起を何度も吸われ、舐め、しゃぶられた。  舌先が突起に触れる度、身体の奥からぞくぞくと、悪寒とは違う何かが背筋を幾筋も這い上がって行く。  その度何度も身体を撓らせ、何度も小さく声を上げた。  ・・けれども、何度快感に身体を揺らしても解放される事は無い。  「男の乳首ってさ、女のより小っさいのに感度は女のより良いんだな。・・それに、これってフェロモン?すげえいい匂い・・・」  「・・ふぁ・・・もう・許して・・・・」  何度も涙目で懇願したが、その度行為は反比例するかのようにむしろエスカレートしてゆく。  「その顔可愛い・・・もっとして」  「ひいっ・・あ、ああーーーっ!」  南は遂に絶叫し、そのまま何度も身体を揺らしながら果ててしまった。  しかし、肝心の輝は南を解放する気がさらさら無さそうだ。  それでも肩で息をしつつ、最後のお願いをした。  「もう、許して・・。もう・・これ以上は・・・!」  だがその言葉を遮るかのように、執拗に唇を塞がれた。  それと同時に、南の股間にはち切れんばかりに膨張した、輝の股間が何度もすり付いてくる。  (・・もう、駄目・・・・)  あきらめかけたその時。  余りにベストなタイミングで丁度そこに、  「オイ、居るのかきらり。ちょっと・・」  父である大熊がやって来た。  その瞬間、一瞬だけ輝が父の声に怯んだ。  その隙に、南は渾身の力を振り絞って輝の拘束から逃れ出て、室外へ飛び出した。  「大熊さん、助けて・・・・」  涙をぼろぼろ流しながら、はだけた胸元を必死に手で押さえ、南は輝の父である大熊に助けを求めた。  南が「助けて」と口にした瞬間、大熊は部屋のベッドの上にいた息子を思いきり殴り倒した。  「馬鹿野郎・・お前彼に何したのか分かってんのか?!」  余程加減もせず殴ったのか、ベッドの隅に吹っ飛んだ輝の頬は真っ赤に腫れ上がっていた。  その後言葉を紡ごうと唇を開いた瞬間、輝の唇を血が一筋伝った。  その血を手の甲で拭いながら、輝は父を睨みつけた。  「解ってるさ。俺は頑張った分の褒美を南さんから貰ってただけだ。間違った事はしていない」  その言葉が終わる前に、大熊の次の拳が輝の頬にヒットした。  またも壁際に吹っ飛ぶ輝に、  「それに南さんが同意したとでも言うのか!だったら何故、彼は俺に助けを求めた?」  そう怒鳴りつけた。  南は俯いたまま、大熊の陰に隠れて何も語ろうとはしない。  父は大きく溜息をつき、息子を極力冷静に諭す。  「・・・いいか、お前のやった事は犯罪なんだ。解ってんのか、お前はこの人を今強姦してたんだぞ?」  「・・・・・・・」  漸く状況を理解した輝は、腫れあがった唇をかみしめながら項垂れている。  大熊は息子の興奮が冷めた事を確認した後南に向きなおり、南を軽く抱きしめながら謝罪した。  「すまない、恩を仇で返すこんなクソみたいな息子で・・。謝って済む事じゃあ無いが、謝罪させてほしい」  「・・こ、怖かった・んです・・ううっ・・・・」  南は声を必死に殺しながら、大熊の胸で静かに泣いた。  と、急に輝が大きな声で涙を流しながら叫んだ。  「だって・・俺だって好きなんだ!南さんが!だけど、南さんはどうやっても、そうやって親父にしか心を開いてくれねえだろ!・・・だったら、俺はどうすりゃ・・振り向いてもらえんだよ。どうすりゃ、俺にも心を許してくれんだよ!」  その、あまりに必死な輝の心の叫びは・・・南が全く知り得ない物だった。  「・・ぐすっ・・ぼ、僕はてっきり、遊ばれて、からかわれてるんだと・・・・」  「違う!俺はただ、南さんを親父に取られたくなかっただけだ!」  「えっ・・・・それって、どういう・・・・・」  奥手で鈍感の南には現在置かれたこの状況が余りに理解不能過ぎて、状況がうまく呑み込めない。  恐る恐る見上げた大熊の表情は、「あちゃー」とでも言わんばかりの表情をしていた。  南の泪は、あまりの事にぴたりと止まってしまった。  「・・・きらり君は、本当に・・僕をからかってた訳じゃないんだ?」  「当たり前だろ。そんな悪趣味な事、絶対しねえよ!」  「じゃあ・・・大熊さん・・・は?」  未だ涙のうっすら残った大きな瞳で、大熊をじっと見上げる。  大熊は見る間に顔を真っ赤にし、顔を必死に背けた。  それには輝が、  「親父、往生際悪いぜ。ちゃんと言っちまえよ」  がっつり釘を刺した。  大熊は何度も大きな溜息をつき、何度も腕の中の南をチラチラ見ながら、  「・・・最初から、俺の好みだったんだ。性別なんて関係なく思える程の、一目惚れだったんだ・・・仕方無いだろ」  そう小さく呟いた。  そして直後、  「ああっクソ!言っちまったじゃねえか、このクソ息子!」  そう思い切り叫んだ。  南はしばらくはきょとんとしていたのだが、突然大慌てで大熊の腕から飛び出した。  そのまま急激に耳まで真っ赤に染めつつ、大熊と輝を交互に見出した。  「えっ・・あの・・・えっと・・その・・・・」  「・・・ああ、そういう事だよ。正解」  「俺たち親子は、本気で君が好きになってしまったんだ」  「・・・嘘・でしょ・・・・?」  「だ~か~ら~、マジで!」  「・・・・冗談で言うわけないでしょ、こんないい歳こいたオッサンが・・」  「だって、僕は男・・・」  「好きな人の性別なんて、もうどうでもいい」  「身の回りの世話をあんなに甲斐甲斐しく焼いてくれて、文句も言わずにいつも笑顔で暖かい料理作って待っていてくれてる人が、今更どんな性別かなんて知った事か。何より「男でもオメガなら子供は産める」・・それで十分だ」  南は顔を真っ赤にしたまま、再び泣き出してしまった。  「・・どうしよう、嬉しいです。凄く、すごく・・・・!」  満面の笑顔で嬉し泣きする南を、大熊と輝が囲み、包み込むように抱きしめた。  「大熊さんも、きらり君も、大好きです・・・」  南が感極まってそう呟いた瞬間。  「いやいやいや」  「どっちか決めて貰わないと、なあ」  「・・・・・・え?」  又も南の身体が硬直し、涙の分泌がぴたりと停止した。  思わず・・二人の顔を交互に見つめた。  二人は満面の笑顔で南を見降ろしつつ、  「なあ、若くて将来性あるイケメン!俺を選んでよ、南さん!絶対大事にするからさ」  と輝が。  「何言ってんだ。酸いも甘いもかみ分けた、経験豊かな俺の方がいいに決まってる。アダルトな大人の魅力の詰まった俺を是非」  と大熊が。  「えっ・・・ちょっと待って」  しかし・・そのまま穏便に進みそうだった話は、急に逆方向にかじを切った。  「そもそも親父が南さんに「いい人アピール」しまくって、俺をのけ者にしたからこうなってんだ」  「馬鹿野郎!そそもそもの話、お前がポンコツだから家庭教師として南さんに来て貰ってる事、忘れんな」  「うるせえ、大学合格すりゃいいんだろ。じゃあその暁には、南さんは俺が貰う」  「南さんはモノじゃねえだろ!これだから馬鹿は話になんねえ。やっぱりお前に南さんは上等すぎる。俺が大事にするから、お前はせいぜい指くわえて見とけ」  「黙れジジイ」  「黙れクソガキ」  次第に南を抱き寄せる力強くなり・・・・。  「あの、待って・・穏便に行きましょう、ね?ね?」  「それはこのオッサンに言って下さいよ!」  「チッ、ガキは黙ってろ!」  「待って・・い、痛い、痛いですって!」  「南さん、もっとコッチ来て!」  「いいや、アイツに騙されちゃいけません。こっちに!」  「痛い!痛い!痛い!」  結局最終的に、両方から力の限りに引っ張られ、南の我慢にも限界がやって来た。  「もういい加減にしてください!」  南が大声を上げた。  ・・途端、二人ともピタリと動きが止まり、思わず南の顔をじっと見つめた。  その南は、怒声とは裏腹ににこやかに微笑んでいた。  ・・・但し、目は全く笑っていない。  そんな南がゆっくりと、口を開いた。  「何なんですか、貴方達は。急に襲い掛かって来たり、殴り合ったり、プロポーズして来たり・・。かと思えば、子供の喧嘩みたいな事を始め出すし・・。全く、いい加減にして下さい!」  「・・・ハイ」  「スミマセン」  二人は最愛の人をブチ切れさせ、流石に意気消沈しつつ小言に耳を傾けている。  「きらり君」  名を呼ばれ、思わず飛び上がる。  「ハイッ!」  「貴方は先ず、大学に合格することが最優先事項でしょう。目先の色恋などに惑わされている時ではありませんよ。僕に好かれたいというのなら、先ずは僕と共に頑張って、勉強で結果を残してからにして下さい」  「・・・・ハイ」  輝への説教が済むと、南は大熊をじっと見つめた。  「大熊さん」  余りに冷静な南に、大熊も戦々恐々としつつ返事を返す。  「ハイ」  「貴方はきらり君の父親です。息子さんにもう少し優しく接しないと駄目ですよ。それと、感情に任せた暴力はいけません。「もう少し父親らしく」・・良いですね?」  「・・・ハイ」  意を決した告白だった筈なのに、結局二人は南を本気で怒らせただけで終わってしまった。    その後、南は救急箱片手に輝の許を訪ねていた。  「痛かったでしょう?大熊さん本気で殴っていたから」  南は輝の頬に湿布を貼りに来ていたのだ。  「はいそれとこれ。ちゃんと冷やさないと、明日はイケメンが台無しになっちゃう」  救急箱を片付けつつ、ベッドに横たわる輝の頬にそっと氷嚢を押し付け、微笑んだ。  輝はちらりと、ベッドサイドに腰掛ける南の顔を覗き込み、  「・・・もう怒ってない?」  恐る恐る、そう尋ねて来た。  「・・・怒ってる」  「うっ・・・・」  南はクスリと微笑んだ。  「僕が鈍感なのも悪いけど、君達アプローチ下手過ぎだよ」  氷嚢片手に天井を仰ぎ見つつ、輝は大きな溜息をついた。  「まあ手順幾つかすっ飛ばしたことは認める」  「飛ばし過ぎ!・・大体セックスなんて、互いの感情確認してからする事でしょ」  「いや・・・嫌われてる事は絶対無いって思ってたんで、つい」  「つい・・ってレベルじゃないでしょ、あれは」  南は輝の頬を軽くつねり上げた。  「いてててて!痛てえって!!」  「・・怖かったんだよ、本当に」  南は輝を静かに諭す。  「・・・・・ゴメン」  しょんぼりと小さく項垂れながら、輝は再度頭を下げ、謝罪した。  「許して欲しかったら、期末テストで結果を出して欲しい」  「・・・わかった、わかんない所また教えて」  南は、立ち上がる前に輝の頬に軽くキスをした。  「・・ありがとう、好きになってくれて」  南が輝の顔を覗くと、輝の頬は真っ赤に染まっていた。    南は今日もじっと、大熊の帰りを待っていた。  そのまま何時もの様に、深夜帰宅する大熊を待ってリビングでパソコン作業を行っていた。  そして・・・何時もの様に足音が近づいて来て、ガチャリと扉が開けられた。  「ただいま」  「お帰りなさい」  帰宅した大熊を南は何時もの様に迎え、風呂に入る様に促す。  今日の夕飯は、茄子のみそ炒めと和風ハンバーグ、豆腐と油揚げの味噌汁。  その後風呂から出て来た大熊に、何時もの様に冷蔵庫から冷えたビールを取り出して渡し、  「それじゃあ、僕はこれで」  そう告げ、部屋に戻ろうとしたのだが。  その腕を急に掴まれ、抱き寄せられた。  「うわっ」  大熊の腕に支えられ、顔を上げるとそのまま唇が重なった。  「はぁ、ンう・・・」  その腕の力は輝の時と違ってきつくも強くも無い。  だが、大熊の舌が巧みに南の舌に絡みつき、何度も激しく愛撫された。  (大熊さん・・・本気で、キスしてる・・!)  ただ舌を絡めてるだけだというのに、次第に体が疼き、膝がかくかくと笑いだした。  大熊はそれが頃合いと感じたのか、唇がそっと離された。  「はあっ、はぁ・・・・」  だがその瞬間、南は膝からがくんと崩れ落ちた。  大熊は難なく南をキャッチし、そのまま南をそっと抱き寄せ、耳元で小さく  「君に今日告白した。だからもう我慢する必要は無い。・・これからは本気で、君を落とさせてもらう」  「大熊さん・・」  「二人きりの時は、”大伍”と呼んで欲しい。・・孝生」  大熊の瞳は熱く滾っていた。  その時・・耳に軽く吹きかけられた息で、軽くいってしまいそうな位震えた。  (この人は、本気だ・・・)
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