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「なぁに? このポエマーチックな小説は!
何目線で書いてんのよ! あんたは!」
「ぐ、 ぅ」
「それに何この最後の文!
ああ、 どうやら蘭花は行ってしまったようだ
いってらっしゃいってお前は誰だ!!」
「あぁ、 ふみかちゃん!
声に出さないでよ! 恥ずかしい、、」
「あたしのほうが恥ずかしいわ! 見られるこっちの身にもなれってんの!」
冒頭から怒鳴りつける人は私の唯一の友人、高橋史香ちゃん。小・中・高とはたまた大学まで一緒の幼なじみというやつだ。昔馴染みもありたまにいや、頻繁に私の描いた創作物を見せては辛辣な意見を貰っている。
「てか、 最初の出だしとかホラーっぽくて全体的に統一感ないし、 二度寝ってとこは笑いとってんのかと思ったわよ」
「いや、 あれはほんとにあったことで、、」
「まぁリアルにあったことをかくと見てるこっち側にも臨場感伝わるしね」
「うん。
それに合わせて自分の世界観が混ざったらなぁって...」
「いつも手厳しく文句つけるけど私、 蘭花の描く小説は好きなのよ」
「へへぇ、 ありがと」
お察しの通り、裏表がなく素直で真面目な子。
心配症なのか憂憤することもしばしば。私の第二の母親といったところかな。
「でも、 メールにね少し妙なこと書かれてたの」
「妙なこと?」
「うん。 先月? あたりから同じ時間に毎日メールが送られてくるの」
鞄の奥底からスマホを取りだし宛先不明のその人の履歴を探す。始めから見せようと思い画面を下にスクロールする。
日付は3月17日となっており一ヶ月前からだった。
「なぁに、 これ!
ちょ、 ちょっとストーカーじみてるじゃないの!」
君と僕は一心同体、君と僕は似てる、君と僕はいつも一緒。
などなど、似たような言葉を連れ連れと並んでいる。
「蘭花、 これ警察に行ったほうがいいんじゃない?」
「うーん、 本来はそうした方がいいんだろうけど何かね悪い感じには見えないと思うんだよね」
「悪い感じに見えないって、 、」
朝の6時42分に受信されたメッセージ。
最初はただの悪戯メールだと思っていたが一ヶ月も経つうちに慣れてしまった。
送り主は君と僕さん。文章の出だしがいつも君と僕はから始まるのでこっそり自分の中で呼び名をつけた。その人からのメールは毎日来るが何十件とひっきりなしではなく朝、たったの一回のみ。
誰かに後をつけられたりとか、私物が勝手に失くなっているとそういった類いのものではないと判断したのが先週あたり。不思議と自分の中では嫌な感じはなく、寧ろ心の中がじんわりと温まる感覚がする。自分の知らない相手だがずっと前から知っている、まるで家族みたいな...
「蘭花! 蘭花! 聞いてる?!」
「、 へぇ...?」
「あんた、 もう二十歳過ぎたんだから少しはしっかりしなさい
昔っから抜けてるんだから危機感覚えなさいって何回、 」
「も、 もう分かったってば
そのセリフは耳にタコだよ」
何かある度相談しては口で注意され、ほんとにふみかちゃんには申し訳ない。
メールの内容が怖くて不快だったなら構わず警察に相談するがそうではないのだ。
送られてくるたび心が落ち着く、そんな自分でも理解し難い為、心の救世主ふみかちゃんの御出ましと言うわけだ。
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