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4話 この主人公は確実に不健康
「ところでさぁ、涼くんって料理どれくらいできるの?」
スーパーの青果コーナーで玉ねぎを手に持ちながら、石川はふとそんなことを聞いてきた。
「できない。だいたいご飯はコンビニ弁当か惣菜で済ませてる」
「ウソ? マジ?? お菓子作れるのに???」
「ホント、マジ、お菓子作れるのに」
「不健康そ〜」
まぁ、おいしいお菓子(らしい)を作る人間が飯は惣菜ですなんて言ったらそういう反応になるわな。
でも、どうしても怠惰の気持ちの方が優ってしまうんだよ...
すると石川は少しの間考える仕草を見せた後、俺にこんな提案をしてきた。
「じゃあさ、これからもっと私にいろんなお菓子作ってよ」
「はぁ? なんで?」
「そしたらあたし、涼くんのためにご飯作ってあげるから。涼くんお菓子作りなら得意なんでしょ? どう?」
え?ナニソレ?
つまりお菓子作ってくれたら、女子高生の手作りご飯が毎日食べられるってこと?
いや、毎日とは言ってないけども。
しかし待て。
一つ問題がある。
それは俺が混ぜて焼く系のお菓子しか作ったことがないという点だ。
だってそれ以外のやつだと何かと手間がかかって面倒なんだもん。
けど、ご飯作ってもらえるのはありがたい…
それに石川は俺のお菓子をかなり気に入ってくれているらしい。
ここで他のお菓子なんか作れませんとか言おうものなら格好が悪い。
「わかった、もっと色んなもん作ってやるから期待しとけ」
「やった〜!」
俺の返事を聞いて子供のように跳ねる石川。
...これは練習しとかないとまずいかな。
※
その夜、石川が作ってくれたのは俺のリクエストに応えてハンバーグにしてくれた。調理は俺の家のキッチンで行われた。
いや、うん、一人暮らしの男の家に女子が一人乗り込むのは色々とまずいんじゃないかと思う。俺もそう思う。
だから最初は持ってきてくれるだけでいいと断ったのだが、石川は「すぐあったかいうちに食べれた方がいいでしょ? 作ったらすぐ帰るから」と言い聞かなかった。こいつ肝座り過ぎだろ…
「どう? 美味しい?」
「うん、美味しい。ていうかなんでまだいんの?」
俺の聞き間違いじゃなければ作ったらすぐ帰ると言っていたはずだが。
おかげで食事中なのに落ち着かない...
「さすがに感想くらい聞かせてよ〜、もし不味かったらお詫びのしようがないじゃん?」
お詫びって何だよ!
なんか状況的に悪い予感しかしないんだけど!?
「あっ! そうだ!」
俺は変な方向に行きそうな思考を止めるため声を出し、冷蔵庫を開けた。
そして中からアイスボールクッキーを一袋取り出し石川に差し出した。
とりあえずこれで今日はさっさとご退場願いたい。
「これ持ってけよ。余ってたやつだから」
「あ、これこの前のやつじゃん! ありがと〜!! 今食べてもいい?」
「どうぞ。食ったら今日は帰れ」
袋を開けて中のクッキーを口に入れる石川。
「ん〜これ最高! 幸せ〜!」
それにしてもまぁ、美味しそうに食べるやつだ。
一袋平らげた石川は今度こそ俺の家を去って行った。
「さて、次から何作ればいいかな…」
夕食後、俺はインターネットのお菓子レシピサイトで調べ物を始めた。
すべてはご飯を作ってもらうため。
めんどくさい人間が楽をするため。
それが理由だ。
ただ脳裏にはなぜか、美味しそうにクッキーを食べる石川の顔が焼きついていた。
そして何より、レシピサイトで調べ物というめんどくさいことをしている自分がいた。
...楽するためなんだよな?これ?
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