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6話 ネットショッピングから始まる半同棲生活
その週末、俺が作ったお菓子は天ぷらアイスというものだった。
アイスをパウンドケーキで包んで油で揚げるという変わったお菓子だ。
それを俺の家...というかアパートで食べる石川。
「あっつい油の中で揚げてたのに、全然アイス溶けてない...不思議だけどこれすっごく美味しいよ!」
今回もとても美味しそうに食べてくれている。
「なぁ、石川」
「ん〜?」
「...ありがとな」
「何が〜?」
そんな石川に、俺は感謝の言葉を述べる。
本人は何のことだかさっぱりって様子だけど。
「それと、ごめん」
「だから何が〜??」
そして、謝罪の言葉も述べる。
本人は何のことだかさっぱり...ってこれもう書いたな。
「夕飯、作ってくれてるから」
「急に改まってどうしたの〜? 料理ならあたしも好きでやってるし、涼くんはお菓子作ってくれてるんだからいいんだよ?」
「そのお菓子なんだけどさ」
「...もしかして作れなくなったとか?」
「いや! そういうんじゃなくてだな!」
石川があまりにも悲しそうな顔をしたため慌てて否定した。
ごめん、今のは「そのお菓子なんだけどさ」とか不穏な空気醸し出してた俺が悪かった。
俺は改めて石川にこの前の調理実習での出来事、そして、感じたことを話した。
「ーーーその時に俺、気付いたんだ。俺がお菓子を作ってるのって、”美味しい”って声が聞きたいからなんだって」
「...それでクラスの女の子にもお菓子作ってあげることにしたんだ?」
「いや! 言いたいことはそんなことじゃなくてだな!」
石川があまりにも不満そうな顔をしたため慌てて否定した。
ごめん、クラスの女子に「ま、まぁ、気が向いたらな」とか曖昧に答えた俺が悪かった。
「ごめん。今まで、石川にご飯作ってもらうために仕方なくお菓子作ってやってるみたいに思ってた」
そして俺は、本当に伝えたいことを伝え始める。
「でも本当は違った。石川に美味しく食べてもらいたいんだよ」
だって一番美味しく食べてくれるやつは、クラスの女子じゃない。
そいつは俺のお菓子を気に入ってくれて、俺のためにご飯を作ってくれる、馴れ馴れしくて、ちょっと苦手な女の子だったから。
「だからさ」と俺は続ける。
「これからも、作ったお菓子、食べて欲しい...かな」
伝えたいことは全て伝えた。
石川はしばらくポカンとしていたが、やがて困ったような顔を浮かべた。
「ん〜? あたし今告白されたの?」
「えっ? あっ…」
「冗談だよ冗談! 赤くなってるよ? アハハハハハッ!!!」
我ながらかなり攻めたことを言ったことに気づいた。超恥ずかしい...
「でもそうだね〜涼くんってあんまり凝ったお菓子作ったことなかったでしょ?」
「え、それは...」
「形が少し怪しいのもあったよ? 美味しかったからいいんだけどさ〜」
練習してたことバレてたのか??
付け焼き刃じゃ女子高生の目はごまかせなかったということか...
「でも、人のために頑張れるって、涼くんのそういうとこ...あたしは"好き"だな」
「...俺めんどくさがりだぞ? 頑張るの嫌いだぞ?」
「だからこそだよ〜、普段とのギャップ?っていうやつ!」
それでも石川が俺のお菓子を食べてくれたのは、そのギャップとかいうやつに惹かれたから?いや、でもお菓子自体は美味しかったって言ってくれたから、やっぱりお菓子が食べたかったから?
なんてことに頭を悩ませていると石川が新たな提案をしてきた。
「じゃあさ、これから毎日一緒にご飯食べようよ」
「えぇ?」
「あたしにこれからもお菓子食べてもらいたいんでしょ? じゃああたしもその分ご飯作らなきゃ。だめ?」
「いや、だめじゃねえけど…」
「じゃあ決まりね!」
それってもう半同棲じゃね?
なんか今まで以上に色んな意味で心配にならないこともないけど...
「...わかった」
石川がなぜ俺のお菓子を食べてくれるのか?
今はまぁ、どっちでもいいや。
だって、嬉しいことに変わりはないのだから。
これからも俺のお菓子を食べてくれると言ってくれたのだから。
だから、俺はその提案に乗る。
「それなら、もう一つ言っておきたいことがある」
俺は石川の目を見据えた。
さっきと同じくらい恥ずかしいけど...言っておこう。
「ご飯、いつも美味しくて、"好き"だから...これからもよろしく頼む...心暖ちゃん」
うん、好きだ。
その好きに、"ご飯"以上の意味があるのかどうかはできれば聞かないで欲しいけど。
「...うん! 今後ともよろしくね、涼くん」
とても嬉しそうに心暖ちゃんは笑ってくれた。
その笑顔が見れるだけでも十分だ。
「それとこれからは少しずつでもいいから料理教えてくれよ」
「いいよ、その時はたっぷりしごいてあげるからね?」
「...お手柔らかにお願いします」
料理は優しく教えてもらいたいなと思いつつも、今までより1歩踏み込んだ生活を、俺は夢想した。
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