家族

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家族

「え、冬利って彼女居んの!?」  クラスの男子が言った言葉が偶然耳に入る。 その男子は俺が聞こえたのを知ってか知らずか、俺の方に寄って来て、 「おい、春馬も見てみろよ! メッチャ美人だぜ!?」  正直心穏やかじゃ無かったが、付き合っているのは内緒にしようと決めているので何でも無い風に冬利の机まで行き、スマホを見た。  待ち受け画面には、冬利と仲良さそうにピースサインをして映る女性が居た。  ぱっちりニ重瞼。 艶々の黒髪。整った顔立ち。 1言で言うと、美人だ。かなり。 「うっわ冬利お前こんな可愛い彼女居たのになんで黙ってたんだよー」  男子が口を尖らせて聞く。   いや、彼女じゃ無いから。……多分。 「……これ、姉ちゃんだからね?」  冬利は誤解を解くように言った。 それはかなり驚き。今時家族の写真を待ち受けにする奴が居るとは…。 俺の偏見かもな、と少し反省しつつ、やっぱりどこかでホッとしていた自分が居た。 (俺、疑ってたのか? 冬利の事を?)  仮にそうだとしても、仕方の無い事だと思いたい。  自分の恋人と異性との仲良しツーショットを見て、何も思わないのもおかしな話だ。  帰り際、そんな事を冬利に話すと、いつもの様にふふっと笑って、それから目を輝かせて、さも嬉しそうに 「それさ、『嫉妬』っていうんだよ!!」 「しっと……?」 「うん! えへへ……嬉しいなぁ……‼ 春馬ちゃんが僕に嫉妬してくれるなんて!!」  うん……。今のは流石に少し気持ち悪い。  コイツの事は元々掴めない奴だと思ってたが、付き合い始めてからますますよく分からなくなってきている。 「ハァ…… なんでこんな奴好きになったんだろ……」 「じゃあさ、今僕の事好き?」 (……は? 今!? 今それ聞く!?)  なんだコイツ……ますます訳分かんない。 (なんで! こんな所で! 当たり前の 事聞くんだよ!? 流石に恥ずかしいよ!?)  なんて事を考えていると、俺の恥じらいなんて微塵も知らずに、冬利はいつもの様にのほほんとした口調で 「春馬ちゃんに嫌われちゃったら僕ショックで死ぬから!」  と、いつもの口癖。  あーもーいいや……。 考えるだけ無駄な気がしてきた……。 てかコイツが意味分かんないのは元からだし、そこ含めて好きになったんだしな。 「ハァ…… じゃあお前の死因が 『俺に嫌われたから』 なんて事にならない様に、お互いもっと理解しないとな」 「あー そうだねぇ…… そもそもなんで春馬ちゃんが僕を好きになったかすら聞いて無い気がするし……」 「ヘぇ……?」  少し呆れ気味だった俺は、呆れる対象が自分に変わるのを感じた。 「え……言ってないよー!?」 「お……教えないぞ……!?」 「えー! なんでー!? ブーブー!」 (言える訳無いじゃないか…! 今更になって、好きになった理由なんて!)  俺は逃げ出したい気持ちを抑え、腕と腕をクロスしてバツのジェスチャーをした。 すると冬利は膨れて、 「もー……‼ 教えてくれないと僕も何も教えないよ!」  と言ってバツのジェスチャーを外しに取り掛かりやがった!  その後、観念した俺は、お互いの理解を深めるという事で、何故か自己紹介をする羽目になった。  自己紹介なら入学式にもやったつーの!!  それが、高校2年の秋の終わり頃。
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