異変

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異変

「なぁ、大丈夫か?」  そう聞くと、冬利はいつもの様にニコニコ笑って 「え〜? 何がぁ?」 (『何がぁ?』じゃねぇよ……)  冬利は最近顔色が悪い……気がする。  いや、毎日の様に見てる顔だ。 気がする訳じゃ無くて、悪いんだ。  それに、今日の体育も見学だった。  仮病とかする奴じゃ無いのは分かってる。 元々貧血気味だと聞いたが ここ最近の冬利はどうにもおかしい。 「どっか悪いのか?」 「ぜーんぜん! もー、春馬ちゃんは心配性だなー‼」  そう言ってアハハっと笑ってみせる。 うん、可愛い! ……ってそうじゃなくて! 「本当に大丈夫なんだよな? 何かあったら言ってくれよ?」  そう言うと、「じゃあさ…」と言って冬利の顔がふっと何の感情も映さなくなった。  そして言った。 「……僕はいつも『明日死ぬかも』って言ってるけどさ、春馬ちゃんは…… 僕が本当に明日死んだらどうするの?」 (……は?)  急に何を言い出すんだろうか。 でもいつもの様にふざけているとは考え難い。  なら俺も真面目に応えるべきか。 それでも…… 「そんな事……本気で考えた事無いな……」  冬利は悩んでいるのか? 『本当に明日死んだらどうしよう』って? そんなのある訳─── 「そんな事ある訳無いって思った? でもさ、 考えてもみてよ! 世界中で1年に死ぬ人数は5500万人、 1日に死ぬ人数は15万人も居るんだ 単純計算で0.576秒に1人は死んでるって事になるんだよ! 例え5万人に1人の確率だとしても、  その中に知り合いも家族も自分も含まれないだなんて…… そんなの言い切れる訳ないよね? 今この瞬間にも、僕は暴走車両に轢かれるかもしれないし、突然ビルが倒れて下敷きになるかもしれない あんまり心当たりは無いけど、誰かの恨みを買って刺されるかもしれないんだよ! 勿論僕は春馬ちゃんが死んだら嫌だよ……? でもさ、そういう『もしも』が今すぐに起こり得ない保証なんて何処にも無いんだよ…… それってさ、凄く…… 怖いと思わない? 結局さ…… 僕は───…… 僕は、『死』というものが怖いんだ 何の前触れも無く、さも当然の様に訪れる『死』というものが怖いんだ…… なんて、こんな意味分かんない事言っても嫌われるだけだよね! ごめんね!」  最後の方は声が少し震えていた。 「『死』が怖い」 冬利は確かにそう言った。  俺も怖い。 でも、それは本能レベルで遺伝子に叩き込まれただけのものであって、ここまで本気で考えだ事なんて無かった。  でも、今すぐ死なないっていう保証が無くて怯えているなんて、逆は考えた事は無いのか? 「冬利…… お前はさっき『死が怖い』 って言ってたよな『今すぐ死なない』っていう保証が無いから怖いって…… でもそれは、逆も同じなんだよ 『今すぐ死ぬ』って保証だって、何処にも無いんだ そんなに考え込んで1人で不安になる事無いだろ?」  冬利は俺の言葉を聞いて、笑った。 それはいつも通りの冬利の笑顔だった。  そうだ。明日だって、10年後だって、絶対に生きられるという保証も無ければ、 絶対に死ぬという保証も無い。  深く考える必要は無いんだ。 一人じゃない。 そう思った。きっと冬利も同じ気持ちでは無いだろうか?  でも、だったら……。どうして……。  笑う前に一瞬、あんな泣きそうな顔をしたんだ?  それに、その事がどうして体調不良に繋がるんだ?  気になったが結局冬利はその事については言わなかった。 俺もまた聞くことが出来なかった。  それが、高校2年の冬。 よく晴れた寒い日だった。
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