離婚を考えるまでの――

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「幸せな夫婦に〝コレ〟は要らないよね?」  記入済みの離婚届。  入籍と同時に書いた〝それ〟は、高校時代の私達の不安とお互いへの想いだった。幸せになりますように、と彼の事を想って自分の名前を書いた。  でも、もう――。 「要らないわ!」  私の声は思ったよりも弾んでいて、悠真の持っている離婚届を引っ張る。  最初は引っ張り合うような形になって中々破れなかったけど、角度を変えるとあっさりと離婚届の端っこがビリビリと小気味のいい音を立てて破れる。  そこからはもう飛びつくように離婚届を二人で破いていった。高校生の時に感じていた反抗心と戸惑いと、怒りを解放するように。童心に返ったようにわくわくしながら手を動かす私と同様に、悠真も目元に皺を作って少年のように朗らかに笑っていた。  逃げ道だった一枚の紙が、どんどん原型を失っていく毎に重苦しかった気持ちが空気を失った風船のように萎んでいく。  離婚届が紙吹雪みたいに細く散っていったのを見届けて、私と悠真はお互いに視線を合わせる。どちらともなく顔を近づけて、キスをした。  こうして私達は上手く卒業出来なかった、子供時代の拗れた気持ちを完全に終わらせて――完全に大人の恋愛へと一緒に一歩を踏み出した。
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