旦那様と離婚の条件

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 そして、私がいなくなれば、彼はまた誰かと政略結婚を結ばされる。今度は私のように白い結婚ではなく、真に夫婦になろうと迫る人かもしれない。  リビングに置いてあるキャビネットへと自然と目が向く。その一番上の引き出し。そこに〝それ〟は今でも入っている。  彼は努力を重ねてやっと専務になれた所なのだ。着実に社長への基盤を築いているけど、まだまだ伊ヶ崎の当主夫妻は口出ししてくるだろう。  拳を握り締めた。  二十代のうちに子供が欲しいなんて漠然とした人生計画はあるけれど、何度も諦めようとして諦めきれなかった恋。ずっと今まで拗らせてきた片想いに殉じてもいいんじゃないだろうか。  悠真を理不尽な政略結婚から解放する為に。  思い付く方法は二つ。  愛のないまま、彼が社長になるまでのサポートをして、彼に好きな人が出来れば離婚。  真っ当な恋人に、夫婦になって、この政略結婚状態を終わらせるか、だ。  出来れば私の心情的に、前者は避けたいもの。  だから、後者を選ぶ。 「あと、三ヶ月……」  三ヶ月以内に悠真を私に惚れさせれば、記念パーティーでそれは叶うことになる。というか、期限を決めないと、ズルズルと今までのような関係を続けてしまいそう。ぬるま湯のような今の関係で、彼の気持ちを知ることは出来ない。  期待し続けるだけじゃ、何も変わらないから。  私の頭の中でスターターピストルが鳴った。
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