旦那様と離婚の条件

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 俺から振ることなんて到底出来ない。伊ヶ崎の家から持ち掛けた結婚話だという事もあるが、美咲の事が好きなのに振れるわけがないだろう。  でも、五年も何もなかったんだ。 「こんなの、期待してしまうよね」  思わず苦笑いをしてしまう。思春期真っ只中の高校生の時からの恋愛を拗らせるとろくな事にならないな、と。  伊ヶ崎家の事情で、十七歳でいきなり既婚者になってしまった彼女の困惑顔を見て、二度と似たような状況には追い込みたくないと思った。  好きだったのに、何も言えなかった。解放する事しか思い付かなかった。俺自身の境遇が、彼女を追い詰めていたようなものだったから。  俺に力がなかった頃の話だ。  ――だから三ヶ月後、美咲には自分の意思でパーティーで俺の隣に立っていてほしい。  美咲にそういった意思が無ければ、愛のないまま彼女の夫を演じる。彼女の生涯を共にしたい人が現れるまで。  拳を握り締める。自分の意思のように固く。  なにがなんでも、この三ヶ月で俺に振り向かせてみせる。俺は欲張りだから、手の届きそうなものには手を伸ばしてしまうんだ。  頭の中で試合開始のゴングが鳴り響いた。
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