旦那様と高校時代の友人

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 指定されたカフェに、相手は既に到着していたようだった。ウェイターに案内されて、柔らかい椅子に座る。  夜の丸の内。一階部分に入っているカフェの中からは、残業していたらしいサラリーマンやOLがチラホラ駅に向かって歩いていくのがよく見える。  店内にはゆったりとしたクラシックが掛かっていて、パソコンと睨めっこするスーツ姿の人が数人と、えらく羽振りのよさそうな女性が優雅に読書に興じているだけだった。 「なに言ってんの?つい三ヶ月前も会ったばっかりじゃん?」 「あれ?そうだっけ?」 「そーそー」  ニコ、とタレ目を細めた成瀬涼は、私が現れるなり先程まで読んでいた数枚の紙の束を鞄にしまう。少しだけ見えた紙面は日本語でも英語でもない。恐らくドイツ語。論文かな。  目尻にある涙ボクロが特徴的な成瀬涼は、実家の医療法人を継ぐために医学部へと進学した。  現在は医学部五年生。病院実習真っ最中らしい。ゆくゆくは臨床研修を経て、専門医を目指していると聞いている。 「それで?悠真、今どーよ?俺まだアイツとまだ会えてないんだよねえ。勿論メッセージのやり取りはしてるんだけど、中々予定が合わなくてさあ」
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