旦那様と一夜

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 実は簡単な自炊なら出来る。でもたまに失敗するくらいかな。クリームシチューとか、カレーとか、切って煮込むような簡単な料理なら、失敗は基本しないし作りやすかったりする。料理はまだまだ修行中。  テレビの声と私の包丁の音が広いリビングに響く。対面型のキッチンなので、テレビがよく見えた。今旬の美人系女優がイケメン俳優と共演してる話題のドラマが流れているけど、内容が全く入ってこない。  ――「それでさあ。ちょっと大胆になってみるんだよ。例えば……、そうだなあ。しなだれかかってみるとか?」  グツグツと煮える野菜と鶏肉を眺めながら、耳元に涼の言葉が蘇る。意地悪そうなというか、何やら悪巧みでも考えてそうな笑みを浮かべていた。  共通の知り合いが多いので、私の恋愛事情は筒抜け。涼のも知っているけど、かなり短いスパンで終わっていた覚えがある。最近……というか、大学の途中からは全く知らない。  彼自身、私の恋愛相談に乗れる程かと問われたら微妙なんじゃないかとも思うけれど、私よりは恋愛経験は豊富だ。  ――「すっげえ、古典的だけどさあ?意外とこれが効果あるんだよなあ。ドキッとするっつーか」  そんなに簡単にいくものなんだろうか。  コンロの前に立ち尽くし、ぼんやりと具材が煮えていく様を眺めていた私だったけれど、タイマーの音でハッと我に返る。ルーを溶かしながら、気持ちを落ち着かせるように深々と息を吐いた。
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