旦那様と離婚の条件

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 麗奈は小声で私の袖を掴み、興奮したようにこっそりと耳元で囁く。  伊ヶ崎悠真。現社長の唯一の子供であり、二十三歳にしてこの総合商社(伊ヶ崎)の専務である。将来、四十六もの子会社を統べる《伊ヶ崎》の社長になる事が決まっているような人物。  本来ならば、下っ端のような位置にいる社員の私達は、すれ違って挨拶出来るだけでラッキーとも言える存在なのだろう。  麗奈が言っていた。「伊ヶ崎専務と結婚出来たら玉の輿だけど、住む世界が違うんだろうなあ」と。  ダークブラウンの柔らかそうな髪。髪と同色の瞳は切れ長で、一見すると冷たそうな印象を受ける。  だけれど、笑った時は目じりに少し皺が出来て、優しそうな雰囲気になる事を私は知っている。  近付いてきた私達の存在を認めて、彼は口元に緩い笑みを作った。 「お疲れ様です」 「お疲れ様です」  麗奈と共に頭を下げると、「ああ、お疲れ様」と簡単な挨拶が返ってくる。伊ヶ崎専務が引き連れていた男性数人も、続いて私達に労いの挨拶を投げてきた。
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