旦那様と一夜

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 悠真は子供のように声の調子を上げた。それもそのはず、彼は市販のルーを使うクリームシチューを大層好んでいる。 「あれ?晩御飯食べてなかったの?」 「食べそびれたんだ」  9時過ぎているのだから、てっきり食べていると思っていたがそうではなかったらしい。晩御飯を食べそびれるなんて、かなり忙しかったのが伺える。  子供のように鍋の中を覗き込みながら、彼はネクタイの結び目に指を掛けて解いた。その私とは違う骨ばった指先が、ワイシャツの襟元から僅かに覗く鎖骨がやけに目に入る。  い、意識しすぎだってば……!  慌てて目を逸らして、洗い物をしようとシンクの蛇口を捻った。 「どうしたの?」  鍋から離れて私の隣に立った悠真は、私の顔を覗き込むようにして不思議そうに問い掛けてくる。  そんなにあからさまにおかしかっただろうか――と、内心ドッと冷や汗をかいた。心臓に悪い。 「え……、な、何も?」 「そう?なんかすごい難しそうな顔してる」  ネクタイを解いた指先が迫ってくる。スポンジに洗剤を付けてしまって、手が泡だらけだったのでその場から動けない。ギュッと目を閉じると、私の眉間に彼の指が触れた。 「ほら、皺が寄ってる。悩み事でもある?」
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