旦那様と一夜

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 主にそれは悠真のことなんだけど――、なんて言えるはずもなく、恐る恐る目を開けると至近距離に彼の心配そうな顔があった。 「だ、大丈夫。何もないから……!」  未だに指で触れられたまま。ルックスの整った彼に見つめられて、意識するなという話の方が無理だ。 「……何かあったら言ってね」  これ以上、私から何も聞き出せないと分かったのか、悠真は物言いたげだったがあっさりと引いていく。  指が離れて、ちょっと物足りなく覚えたのは、きっと気のせい。 「あ……、服着替えてきてね。ご飯の用意、しとくから」 「うん。ありがとう」  ネクタイを外して緩めているとはいえ、未だにスーツ姿の彼に促す。私のあげたカフスリンクスがキラリと控えめに輝いた。 「誕生日プレゼント、使ってくれてありがとう」 「こちらこそだよ。すごく気に入ってる」  私に見せるようにワイシャツの袖を握って微笑んだ彼は、そのまま自分自身の寝室に入っていく。私のあげたものを身に付けてるってなんだか、とってもいいなと心が浮き立つ。  クリームシチューを盛り付け、家政婦さんが買ってきてくれていたバケットを切り分ける。サラダを小さめの器に入れていると、ラフな格好に着替えた悠真がキッチンに入ってきた。
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