旦那様と一夜

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 彼は二脚のワイングラスに白ワインを注ぐ。テーブルに並んだ遅めの夕食は、さっきまでは美味しそうに見えていたのに、途端に味気のなさそうなものに思えてくる。  悠真の言葉にそのままそっくり同じ言葉を返したい。悠真だって、私の事を友達だと思っているくせに。私はそうは思ってないんだから……。 「涼は私と長い付き合いだから、結婚も上手くいくんじゃないかって言ってたの。だから、お互い恋愛感情も何もない。涼も冗談だったし」  苛立ち半分で席に座ると、白ワインが注がれたグラスが目の前に置かれる。悠真は真顔で、何を考えているのか分からない。  ただ、私の言葉にぽつりとこぼしたように小さく呟いた。 「長い付き合いなら、俺達の結婚も上手くいくはずなんだけどね」  まるで今の状態が上手くいっていないように聞こえて、私の指先が少しだけ冷えた。  友人のような距離を保ってきた私達の状態を上手くいっていないと言うならば、一体悠真にとって何が〝上手くいっている〟結婚になるの? 「じゃあ、お仕事お疲れ様」  悠真は目の高さにワイングラスを持ち上げ、私と目線を合わせる。私もそれに倣った。 「悠真もお仕事お疲れ様」
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