旦那様と一夜、その後

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「ずっと他の事が気がかりのような感じなんだよね。心ここに在らずって言うか。なんだか、迷子になって途方に暮れてるみたい」  笑い飛ばしてしまえるような抽象的な表現だった。でも、その言葉が乾いた大地に染み込む水のように、俺の心の中に落ちてきた。  そうだ。俺、ずっとどうしていいか分からなかったんだ。  まだ十代。絶対的存在だった親を失って、目まぐるしく変わっていった日常に、全くついていけていなかった。  母親の死を悼む事すら出来ないまま。  高校二年生の夏の出来事だった。  人の事をよく見ているな、と。そこからは、自然と美咲を目で追い掛けていた。だからこそ気付いた事がある。  彼女は決して彼氏を作ろうとはしない。  疑問に思って、ポロッと成瀬涼と天沢莉佳子にこぼした事があった。二人は微妙な表情で、円城家について教えてくれた。  曰く、円城家は未だに政略結婚をする家だと。  つまり彼氏を作っても、その交際に未来はないのだと。  それが彼らと俺との埋められない溝だった。  上流階級には現代において、もう既に廃れきってしまった習慣が残っていたりする。それを彼らは当たり前のように享受している。
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