重い空気

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重い空気

外はとっくに日が暮れて、寒さが増している。 店への道を急いでいると、ポケットのスマホが震えた。 電話だ。 父からの。 「もしもし」 ぶっきらぼうに電話に出る 「沙羅、大丈夫?道に迷ってない?遅いから心配していて。 迎えに行こうか?」 瞬間的に、苛立ちを覚えた。 「今向かってる、もうつくから」 その苛立ちを隠さずに告げて、向こうの返答を待たずに切った。 まったく、こっちの気持ちも知らずに。 勝手に予約して勝手に待ってて、遅いだなんて。 行ってやるだけありがたく思えって感じ。 このまま帰ってやろうかな。 大体迎えに行こうか、なんて私のこと何歳だと思ってんの。 時刻は19時25分。 店に入る。 「木下ですけど」 出迎えてくれた店員さんにぼそっと伝えると 「お待ちしておりました!」 なんて笑顔で案内してくれた。 案内された個室に入ると、ちょうど前菜が 運ばれてきたところだった。 「沙羅、久しぶり」 父が笑いかけてくるのを無視して、 目も合わさず席につく。 「部活が長引いたの?」 無視しているのに、構わず父が聞いてくる うざ。 ポケットからスマホを取り出し、 特に用はないけどSNSを眺める。 案内してくれた店員さんが 「お飲み物、いかがいたしますか?」 と聞いてきたけど、父親の前で口を開くのが嫌で無視した。 あー、店員さん困ってるな でも別に喉乾いてないし飲み物いらないよ。 構わずスマホを見つめる。 「じゃあ、ジンジャーエールお願いします」 父が代わりに答えた。 私、小さい頃から炭酸苦手なのに、 知らないのかこいつは。 はぁ、とため息をついて目の前の料理を見つめる。 旬の食材を使った前菜盛り合わせ、飾り付けがきれい。 スマホを置いて、箸に持ち変える。 すると、 「どう、最近は。学校は楽しい?」 私がスマホを置いたのをチャンスと思ったのか 話しかけてくる父親。 楽しいわけないじゃん。今日なんて最悪だよ。 地雷を踏んできた父親に苛立ちが再び沸き起こる。 そして、無言の時間が過ぎていく。 居心地悪いなあ。 悪くしているのは自分だとわかってはいるけど、 ここまできちゃったらもう意地でも会話したくない。 早く食べきって早く帰ろう。 沙羅はそう決めた。
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